『ドラクエ』すぐ死ぬスライムに「いのちだいじに」を教わった…「あるくんです」の衝撃
平成の携帯ゲームブームのなか発売された「あるくんです」。スライムを歩いて育てるというゲームなのですが……これがとにかく衝撃だったのです。
「ドラクエ」ならではのゲームシステムに感動
大人気位置情報ゲーム『ドラゴンクエストウォーク』では、実際に歩くことでスライムを育てる「あるくんですW」という機能が実装されています。歩けば歩くほどに勇者とともにスライムが成長していく……日々の「ドラクエウォーク」のモチベーション維持に大いに役立っています。
さてこの「あるくんですW」機能ですが、これはもともと1998年にエニックス(現スクウェア・エニックス)から発売された携帯用ゲームでした。当時は「たまごっち」や「デジタルモンスター」などの育成ゲームが大流行。そんなブームのなか、「あるくんです」は異彩を放っていました。現在の「位置情報ゲーム」の礎を築いた名作ゲームの衝撃を令和の今、改めて振り返ります。
●自分が歩けばスライムもゲーム内のマップを移動!
スライム型の本体に万歩計が内蔵されている「あるくんです」。自分も歩けばその歩数に応じて画面のなかのスライムがマップを移動。マップには「平地」「草原」「沼」「海」などの地形が用意されています。その地形のなかで育成の指標となる「なじみ度」を上げるとさまざまなスライムに「変身」できるというシステムです。
ゲームは最初、「ベビースライム」から「ミニスライム」へと変身するところからスタート。そこから「平地」で「なじみ度」を上げれば「スライム」に変身。「草原」なら「ホイミスライム」、「沼」なら「バブルスライム」に。さらに複数の地形になじむとより上位のスライムに変身できるのです。なお今ではおなじみの「エンゼルスライム」が初めて登場したのもこの作品でした。
自分が歩くと、もうひとつの世界でスライムが冒険し成長していくので、従来の育成型ゲームのペット感覚とは違う「分身」のような存在でもありました。
●油断していると……敵に襲われている!
さてこの「あるくんです」、ベースの世界観が「ドラクエ」だけあって、敵モンスターに遭遇することもあります。勝てばアイテムをゲットできますが、負けるとケガをしてしまうのでプレイヤーは「おうえん」することで勝率を上げる必要があります。とはいえ何せ普段はポケットに忍ばせているので、それに気づかず歩数を無駄にしてしまうこともしょっちゅうでした。
また「あるくんです」に時計機能も内蔵されています。もし負けてケガをし、それを一定時間放っておくと、待っているのは「死」です。通常の「ドラクエ」なら呪文や道具で生き返らせることができますが、「あるくんです」はただ受け入れる他ありません。
なおたとえどんなにケアしていようと最終的に約10日でスライムは無情にも寿命を迎えてしまいます。当時の小学生は本家の「いのちだいじに」の意味をここで初めて理解することになります。
●「ふるんです」になる運命
ここまで「自分が歩くことでスライムも成長する衝撃」を振り返ってきました。しかしたいていの小学生は「あるくんです」が「歩数」ではなく「振動」をカウントしているというカラクリに気づいてしまいます。それ以降、「あるくんです」は「ふるんです」に成り代わり、別のゲームの合間や、TVを観ている最中、耳鼻科の待合室などで、ひたすらスライムを振り続ける小学生たちが目撃されることになりました。
当時はまだ「位置情報ゲーム」前夜。それでも想像で補いながら架空世界での冒険を楽しめた「あるくんです」は、画期的な携帯ゲームだったのです。
なお『ドラクエウォーク』に実装されている「あるくんですW」では寿命システムがなくなり、成長を終えたスライムたちは「スライムの里」という別空間で余生を過ごす仕様となっています。今日もスライムを育てるべく、成長したかつての小学生たちが街を歩いています。
(片野)