「一斉配信」は人気アニメも話題になりづらい問題「ネタバレ」を恐れてSNSから遠ざかり…
ブームを生むには時間が必要
過去から現在まで、数多くのアニメがブームを巻き起こしてきましたが、その多くは「このアニメはすごい」という一人ひとりの視聴者による口コミやSNSなどへの書き込みが大きな原動力となっていました。
近年では2011年に放送された『魔法少女まどか☆マギカ』が視聴者の行動によって大きなムーブメントが起きた作品だと思われます。当初、1話と2話が放送された段階ではさほどの話題とはなっていなかった本作ですが、3話の放送で頼りになる先輩魔法少女として描かれていた巴マミが一瞬の油断から戦死を遂げたことから一挙に話題が沸騰しています。
各所のアニメ系掲示板では『まどマギ』の話題一色となり、膨大な量の感想や考察が書きこまれました。その後は次の回が放送されるごとにその壮絶な内容や提示された細やかな情報について多くの人が語り合い、ファンアートも続々と登場するなど、ブームが加速していきました。
『まどマギ』の事例から考えれば、ブームを起こす作品にはファンが語り合う時間や場所の存在が重要と言えるでしょう。次の回を待つ一週間という時間で、ファン同士が熱を持って語り合い考察し、文章が書ける方はショートストーリーを、絵が描ける方はファンアートを作り上げ、そのなかから新たなクリエイターが生まれ、ブームにさらなる力が加わっていくのです。
残念ながら一斉配信の場合はファン同士が語り合うタイミングがないため、熱意がブームを起こすのは難しいでしょう。アニメの放送形態としてはあまり向いていないのではないでしょうか。
では、なぜ一斉配信が行われるのか。これは独占配信の形式を取り、コンテンツを直接視聴者に届ける事業者が増加しているためと思われます。チャンネルの登録料/使用料という形で収益を確保できているため、ブームを起こすという視点がない可能性があります。もしくは「そもそもブームを起こすには時間が必要」であることを認識できていないかもしれません。
もし何らかの考えがあって一斉配信を行っているのであればよいのですが、もし何も考えずに慣習で行っているとすれば、ファンは素晴らしい作品に出会う機会を、配信事業者は大きな利益を失っているのかもしれません。願わくは、素晴らしい作品にはブームを醸成する時間と機会を与えて欲しい。筆者はそう願っています。
(早川清一朗)