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「あなたの完璧は…」『ゴールデンカムイ』刺青囚人たちの変態性・狂気が光る名言

『ゴールデンカムイ』に登場する刺青囚人たちは、揃いも揃って人の道を外れた者ばかりです。本来は共感できないハズなのですが、そのあまりに一途な変態ぶり悪人ぶりには、心を奪われてしまうこともしばしば。彼らが残した言葉には、美学さえ感じられます。

共感できないのに感動!なぜ!?

行きすぎた自然賛歌で道を外れる姉畑支遁先生の変態っぷりが満載なOVAのパッケージ(23巻同梱版特典)『支遁動物記』 (C)野田サトル/集英社・ゴールデンカムイ製作委員会
行きすぎた自然賛歌で道を外れる姉畑支遁先生の変態っぷりが満載なOVAのパッケージ(23巻同梱版特典)『支遁動物記』 (C)野田サトル/集英社・ゴールデンカムイ製作委員会

 完結を迎えた後も、アニメ第四期スタート(2022年10月~)への期待もますます高まる『ゴールデンカムイ』。物語の主軸はアイヌの金塊争奪戦ですが、その鍵となるのは、金塊の隠し場所への暗号の刺青を彫られた囚人たちです。いわば陰の主役たる彼らは、揃いも揃って人並み外れた変態・悪人ばかりでした。本来なら共感などできないハズなのですが、彼らの「その道」への執着心があまりにも一途なため、「美学」を感じてしまうこともしばしばです。白石、土方、牛山ら、単行本表紙になったメインキャラの囚人たちもかっこいいですが、今回はそれ以外の各エピソードで強い輝きを見せた刺青囚人たちの名言を振り返ります。

●殺しに魅せられた殺されたい男・辺見和雄……「よし この人を殺そう だって僕が求めていたのがこの人ならば  僕なんかに殺されたりしないはずだ」

 まずは、ニシン場のヤン衆(季節労働者)として、小樽に潜伏していた辺見和雄(へんみ・かずお)です。一見、人のよさそうな普通の男に見えますが、その正体は日本各地を放浪しながら100人以上殺してきた殺人鬼。辺見には幼い頃、目の前で弟がイノシシに喰い殺されるのを見てしまったトラウマがあり、弟が必死に抗う姿、やがて絶望してその目から光が失われていくさまを思い出すと、誰でもいいから殺したくなるのだそうです。

 そんな辺見が、不死身の杉元に同じ人殺しのニオイを感じたとき、心に宿った言葉が「よし この人を殺そう だって僕が求めていたのがこの人ならば 僕なんかに殺されたりしないはずだ」でした。

「殺されないだろうから殺す」とは矛盾している気がしますが、実は辺見の究極の願いは、弟のように残酷に殺されること。イノシシに全力で抗ったからこそ死の瞬間に「命がきらめいた」弟のように、自分も圧倒的に強い存在に殺されて命をきらめかせたいと切望しているのです。望みどおり杉元と死闘を繰り広げ、まさに死を迎える瞬間……杉元以上に残酷な死を与えてくれる存在が登場したのは、辺見の人生への負のご褒美だったのかもしれません。

●変態中の変態・姉畑支遁……「世界は…こんなにも美しい」

 杉元一行が釧路で出会った姉畑支遁(あねはた・しとん)は、自然界のすべてを愛し、すべてと一体になりたいと願っている自称・動物学者です。その姉畑が釧路湿原の大自然を目にして感極まったように口にしたのが、「世界は…こんなにも美しい」というセリフ。私たちも旅先やドキュメンタリー番組などにふれ、同様に心震わせることがありますよね。

 しかし!私たちと決定的に違うのは、姉畑先生は自然を愛するがあまり、ウコチャヌプコロ(プとロは小文字)してしまうこと!エゾシカ、キタキツネ、ニワトリ、イトウ(魚)、クマゲラが餌をとった木の穴にさえも、下半身丸出しで挑んでしまうのです。

 しかも行為のあとは我に返り、「こんなことッ あってはいけないッ!!」と自分が穢した自然を存在ごと消そうとします。鹿はめった刺しにされ、木は切り倒そうとされ……。美しい自然とひとつになるには自然の掟に逆らう行為を行うしかないという苦悩を抱えながら、姉畑先生は最後の標的であるヒグマに挑み、見事、本懐を遂げました。と、美しくまとめてみましたが、要するにウコチャヌプコロしてしまったのです。彼の衝撃的な生きざまは、百戦錬磨の杉元や尾形すら驚嘆(ドン引き)させ、刺青囚人随一のインパクトを残しました。

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