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『北斗の拳』の世界は回想シーンも世紀末っぽい? 「核戦争が2回起きた」可能性を考察

全面核戦争によって壊滅した世界のなかで、無敵の暗殺拳・北斗神拳の継承者であるケンシロウが大活躍する名作マンガ『北斗の拳』は、今でも幅広く愛されています。ところで、同作の世界を壊滅させた核戦争とは「いつ」起こったのでしょうか。読んでいて混乱してくるこの謎について、考察します。

全面核戦争は数年前ではない!?

世界が核の炎に包まれたところから始まるけれど、ケンシロウたちの生きる時代はいつ?『北斗の拳』究極版1巻(徳間書店)
世界が核の炎に包まれたところから始まるけれど、ケンシロウたちの生きる時代はいつ?『北斗の拳』究極版1巻(徳間書店)

「199×年、地球は核の炎に包まれた」という、衝撃的なナレーションで始まる名作マンガ『北斗の拳』について、筆者は子供のころは「核戦争『直後』の荒廃した世紀末世界で、凄まじい拳法家たちがバトルしているマンガ」だと考えていました。

 実際『北斗の拳』の冒頭および公式サイトの説明では「199X年。世界は核の炎に包まれた。文明社会は消え去り、世界は暴力が支配する弱肉強食の時代へと突入した。それから数年後……」と記されています。やはり「数年」しか経っていないとのことです。

 しかし、大人になって読み返すと、「核戦争直後の世界」について、どうも違和感が出てきます。まず、核戦争が起こった際にケンシロウたちが核シェルターに避難する場面がありますが、描写を見る限り、人々がその時点ですでに20世紀の文明人ではなく「世紀末世界で生きる人たち」のような恰好をしているのです。

 また、シンがユリアのために略奪を繰り返したという描写がありますが、全面核戦争の直後なのであれば、残留放射能の影響で地上での生活はできないはずですし、そもそもろくな物資もないはずです。しかし、『北斗の拳』では水や食糧の不足は頻繁に描かれますが、「放射能で住めない」という描写自体は実はほとんどないのです。

 また『北斗の拳』の世界には「極北の聖国ブランカ」「サヴァの国」「天帝の勢力」「修羅の国」など、明らかに一定以上長く続いている国家が多数登場します。各勢力の登場人物や習慣は明らかに世紀末世界のそれであり、現代文明の面影は感じられません。

 核戦争から数年しか経っていない世界では、さすがにそこまでの社会変化は起こらないと思います。その他、ケンシロウやその他のキャラの過去回想を見る限りでも、我々が暮らす現代社会とは程遠い世界のように見えます。特に、ユリアと出会って改心する前のフドウの「鬼のフドウ」としての過去は、明らかに我々の知る20世紀の文明社会で行っていた行為とは思えません。

 つまり「『北斗の拳』の世界における全面核戦争は数十年~数百年前」なのではないかと筆者は考えます。「199×年に核戦争が起きた」「(何十年~何百年も混乱があってから)文明社会は崩壊し、弱肉強食の時代となった」「その数年後に物語が始まった」と分けて考えた方が、すんなり理解できると思えるのです。時間が経っているから、文化や文明も変化しているし、現代と異なる国がいくつもあるということです。残留放射能も減少し、人びとが地上で暮らせているのもそのためでしょう。

 ほかに身長20mはありそうな怪物・デビルリバースがかつて死刑を宣告され、13回も執行を受けたという記述がありました。怪物が幽閉されていたビレニィプリズン付近の地域には、何らかの国と司法が存在したということです。また、元プロボクサーだというキャラや、核戦争を起こした政治家を罵る軍人も登場しました。ある程度の社会体制と、ボクシングという娯楽を楽しむ余裕があったのでしょう。

 しかし、デビルリバースのような怪物は、放射能汚染の影響でもなければ生まれる可能性は低いと思われます。まとめると、こういうことではないかと思います。

(1)「199×年に全面核戦争が起こり、現代文明は大打撃を受けた。しかし、部分的には住めるところもあり、山奥などで拳法を継承する人も存在した」

(2)「大半の人々は核シェルターで生活したため、既存国家は徐々に崩壊。放射能が減少した後もデビルリバースのような怪物が現れるなど、問題が頻発して秩序も崩壊した」

(3)「地上で生活できるようになっても、放射能の影響か、拳法が凄いのか、残っている機械文明よりも、拳法家の方が強く、ラオウやサウザーのような支配者が現れた」

 ということでしょう。

 しかし、前述のように「キノコ雲が上がってケンシロウとユリアとトキが核シェルターまで逃げる場面があったから、核戦争は直近で起きたはず」と思われるかもしれません。

 これに関しては「あの核戦争は二度目だった」と考えればいいのではないでしょうか。核戦争後に新しい秩序が作られようとしていたのに、また支配層が旧文明の核兵器を使用してしまい「そこで文明社会は完全に崩壊した」。トキはその犠牲となって病を患い、「その数年後」に物語が始まったということです。

 ゴッドランドを実現しようとしていた大佐が「政府高官」「大企業家」が「押してはならないボタンで問題解決を図ったが、自ら滅びた」と言っているので、ビレニィプリズン付近に死刑を宣告するような国家があったが、核兵器で自爆したと考えられます。ただし、その核爆発自体は限定的なもので、世界全体には影響していないのでしょう。

 ということで、旧文明の崩壊からは何十年(もしくは何百年)も経っていて、核戦争は2回起きたと考えれば、いくつかの疑問は解決できます。ただ北斗神拳の歴代継承者に関して、『蒼天の拳』の主人公で、昭和初期に生きている霞拳志朗が62代で、リュウケンが63代、ケンシロウが64代と考えると、正直この辺りはよくわかりません。

 リュウケンが北斗神拳の力で異常な長命を保ちつつも(経絡秘孔でコールドスリープのように眠っていた可能性も)、長く北斗神拳を継承するほどの男に巡りあわず、かなり時間を置いてから、ラオウ、トキ、ジャギ、ケンシロウに出会ったと考えるしかないです。だからこそ、リュウケンが北斗神拳の掟をラオウに守らせようとした時に、老いで本来行うべきことができなかったのかもしれません。

 このように考察してきましたが、「『北斗の拳』は現代文明社会とは全く繋がっていない、完全な異世界の話」と考えるのも、「正解」のひとつだと思います。

(安藤昌季)

【画像】みんな世紀末じゃなきゃどうしてたんだろう…? 『北斗の拳』戦士たちの雄姿を見る(8枚)

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