『鬼滅の刃』鋼鐵塚さんは、なぜ刀を折られると激怒する?「性格」以外の要因とは
大正時代風の日本を舞台として、鬼殺隊と人を喰らう鬼との戦いを描く『鬼滅の刃』。鬼殺隊の活躍を支えるのが「刀鍛冶の里」の刀匠です。主人公・竈門炭治郎の日輪刀を打った鋼鐵塚蛍もそのひとりですが、炭治郎が刀を破損すると「殺す」とキレてきます。なぜそこまで怒るのでしょうか。
そもそも折れた刀は直せるのか
『鬼滅の刃』に登場する「鬼」。「鬼」を斬るためには、日輪刀と呼ばれる特殊な日本刀で頸を斬る必要があります。
竈門炭治郎が持つ日輪刀は、物語中盤まで刀匠・鋼鐵塚蛍が打ったものでした。この鋼鐵塚は両親が2歳でノイローゼになるほど「面倒くさい」性格をしています。日輪刀は持ち主により色変わりをする性質があるのですが、炭治郎が持った刀が黒くなると、期待外れとして怒り狂ったり、戦闘で格上の鬼と戦って刀を折ると「殺す」と凄んで追い回したりします。
鋼鐵塚の性格が普通でないことは確かでしょうが、なぜそこまで怒り狂うのでしょうか。また周囲も鋼鐵塚を強く叱責はしていませんから「ある程度は仕方ない」と思われているようです。つまり「鋼鐵塚が怒るのも無理はない」という要因があるのでしょう。
筆者の私見ですが、これは「日本刀が折れた場合、直せない」ということが影響しているのではないでしょうか。通常の日本刀の場合、その材料は鉄を打ち、鍛えた炭素鋼です。これは、溶接が難しい金属であり、折れた破損個所を溶接でつなぐことは困難です。
もし、折れた日本刀を元に戻すとしたら、金属を溶かして「材料」に戻し、一から鍛え直す必要があります。これは一から刀を打つのと同じ手間がかかりますし、熱が加わると焼きが戻って、金属組成も変わりますから、前と同じ切れ味の刀に戻るとも言えません。
実在する折れた日本刀には、刀身から中央部までが残った場合は、脇差や短刀に仕立て直したものもあります。なお、美術品としての価値は元値の1割程度まで落ちるようです。
そして『鬼滅の刃』の日輪刀は、普通の日本刀よりも遥かに作るのが難しい武器です。
日輪刀の材料は、太陽に一番近く、一年中陽の射すという「陽光山」でしか採れません。この山で採れる「猩々緋砂鉄」と「猩々緋鉱石」という、日光を吸収した特殊な鉄でなければ、日輪刀にならないのです。
さらに、鬼の王である鬼舞辻無惨は、鬼殺隊関係者や施設を攻撃対象としています。日輪刀を作る設備の場所は秘密にしなければなりませんし、特殊な材料を「刀鍛冶の里」に運ぶにしても、そこで情報が漏れないよう、細心の注意を払う必要があるでしょう。
また「剣士の力量が高ければ、日輪刀は折れない」という設定もあります。こうしたことを全て考え合わせるなら、鋼鐵塚は「信じられないくらい苦労して打った日輪刀を、折りやがった。修理ができないことも知らずに、ノホホンとしやがって。こいつがゴミみたいな力量しかないからだ。許せねぇ、殺す」という思考プロセスで「大人げない態度」を取っているのではないでしょうか。
鋼鐵塚に好感を持つことは難しいでしょうが、日本刀(日輪刀)がどれだけ繊細な武器なのかを知ることで、今後放送されるアニメ「刀鍛冶の里編」の見方が少しだけ変わるかもしれません。
(安藤昌季)