『海のトリトン』後味悪い最終回から50年 脚本を書いた富野監督は「出禁」になる
富野監督のとんでもない改変

そのような状況下、当時手塚氏のマネージャーで後に『宇宙戦艦ヤマト』のプロデューサーとして一世を風靡(ふうび)した西崎義展氏がアニメ化の権利を取得し、TV局への売り込みに成功しました。当初は喜んだ手塚氏でしたが、西崎氏がアニメに関する諸権利を独占したことを知り、後に激怒したとも涙したとも言われています。
監督を務めたのは富野喜幸(現・富野由悠季)氏。後に『機動戦士ガンダム』を手掛け、令和の時代となってもアニメ制作の最前線で活躍を続ける超一流のクリエイターにとっての初監督作品が『海のトリトン』でした。こうした人の動きを見ると、『海のトリトン』のアニメ化が『宇宙戦艦ヤマト』と『機動戦士ガンダム』というふたつの偉大な作品へと直接つながっており、当時のアニメがエネルギーのある人間を引き付ける世界であったことがうかがえます。
なお、『トリトン』の最終回については富野氏が唯一脚本を手掛けており、当初の構想からは大幅な改変を行ったことを後に明かしています。結果、富野氏は虫プロを出禁になっており、かなりの波紋を投げかける行動だったようです。
さて、当時の子供たちに大きなショックを与えた最終回とは、具体的にはどのようなストーリーだったのでしょうか。主人公のトリトンはかつて虐殺された一族の仇を取るため、育ての親であるイルカのルカ―たちと共にポセイドン族の根拠地へと攻め込みます。しかしそこでトリトンはポセイドン族がかつてトリトン族の祖先であるアトランティス人によりいけにえにされた人びとの生き残りであり、真の目的はトリトン族を倒し平和に暮らすことにあったと聞かされてしまうのです。
真実を知ったトリトンに、巨大なポセイドン像が容赦なく襲い掛かります。苦戦を余儀なくされたトリトンでしたが、光り輝くオリハルコンの短剣に引きずられるようにしてポセイドン像を倒し、無事に海上へと逃れ出て仲間たちとの合流に成功しました。
ルカ―の上で、日の出をじっと見つめたトリトンは、無言のまま仲間たちと共に太陽へと向かって旅立ちます。果たしてトリトンの行く手には何が待ち受けているのか、知るものは誰もいません。
(早川清一朗)