アニメや特撮で描かれた「団地文化」の変遷 耳をすませば、ウルトラセブン、漂流団地
かつては憧れの的だった「団地ライフ」ですが、時代の変化によって団地の存在価値は大きく変わっています。各地で古い団地の取り壊しが進む今、給水塔や児童公園を懐かしく感じる人も多いのではないでしょうか。近藤喜文監督の名作アニメ『耳をすませば』をはじめとする、「団地」を舞台にした劇場アニメや特撮ドラマを振り返ります。
主人公たちの10年後を描く実写版『耳をすませば』

スタジオジブリの劇場アニメ『耳をすませば』(1995年)は、公開から27年経った今も、とても人気の高い作品です。自分の進むべき道を懸命に模索する中学生たちの青春ストーリーは、大人になって見返しても感慨深いものがあります。
2022年10月14日(金)から、実写映画『耳をすませば WHISPER OF THE HEART』が劇場公開されます。劇場アニメで描かれた物語から10年の歳月が流れ、大人になった主人公たちの姿が描かれます。清野菜名さん演じる月島雫は出版社に勤め、松坂桃李さん演じる天沢聖司はイタリアでチェロ奏者となっています。近藤正臣さん演じるアンティーク店「地球屋」のおじいさんも登場します。聖司の演奏に合わせ、雫が歌うシーンが大きな見どころとなっています。
宮崎駿脚本・絵コンテ、近藤喜文監督によるアニメ版『耳をすませば』では、雫たち家族が暮らす東京都郊外にある団地での生活がディテールたっぷりに描かれていたことも印象的でした。劇場アニメや特撮ドラマで描かれた、懐かしい団地文化について振り返りたいと思います。
アニメ版だけの設定だった団地生活
小さい頃から本を読むのが大好きだった雫は、童話作家になるという夢を持つようになります。創作を志すきっかけは聖司と出会ったことですが、図書館の司書を務める父親の影響も大きいでしょう。本に関する幅広い知識を必要とする司書ですが、収入はあまり高くはありません。部屋数の限られた団地のなかで、雫たち4人家族は慎ましく暮らしています。
団地生活を送った方なら分かるかと思いますが、団地は意外なほど樹木が豊かで公園などの公共スペースがしっかりと設けられている分、居住空間はかなりコンパクトに設計されています。雫のお父さんは、団地の階段でご近所さんとすれ違う際、「こんばんわ」「すいませんね」と譲り合っています。また、ご近所同士で余り物をお裾分けする場面もあります。適度なご近所づきあいのある理想的なコミュニティーとして、団地文化が描かれています。
雫の姉である大学生の汐はバイト代を貯めて、団地から早々に出ていくことを決めています。一方、中学生の雫は団地への愛着が強いようです。「カントリー・ロード」の替え歌「コンクリート・ロード」を歌うなど、団地で育った自身のアイデンティティーに自覚的です。
実は柊あおいさんの原作マンガにも、今回の実写映画版にも、雫が団地暮らしをしている描写はまったくありません。劇場アニメだけのオリジナル設定です。団地で暮らす中流階級に対する、宮崎駿&近藤喜文コンビの温かい目線が感じられます。