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『ガンダム0080』バーニィが脱出してたら結末は? 切なすぎる「もしも」

『機動戦士ガンダム』の舞台「1年戦争」を初めて、映像作品外伝としたのがOVA『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』です。メインキャラクターのバーニィはスペースコロニー「サイド6」の少年、アルと仲良くなり、彼の頼みで脱出の機会を捨ててしまいます。もしバーニィが脱出していたら、物語はどうなっていたでしょうか。

バーニィはとても有能な兵士

『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』DVD Vol.1(バンダイビジュアル)
『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』DVD Vol.1(バンダイビジュアル)

 1989年に、全6巻がOVAとして発売された『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』。カルト的な人気を誇る『機動戦士ガンダム』初の外伝映像作品としても、富野由悠季監督が手掛けない初めてのガンダム作品としても、注目された作品です。

 また、作品内容が、それまで敵側として描かれていたジオン軍側での視点が多く、宇宙世紀の日常風景もふんだんに描かれています。「主人公」と呼べるメインキャラクターが3人いるのも特徴です。

 戦争に憧れる、中立スペースコロニー「サイド6」の少年アルフレッド・イズルハ(アル)と、高校の卒業後、徴兵された青年バーナード・ワイズマン(バーニィ)の心の交流を軸に、物語は進みます。バーニィが淡い恋心を抱いたクリスチーナ・マッケンジー(クリス)は、新型ガンダム「アレックス」のテストパイロットであり、バーニィとクリスはお互いに惹かれつつも、お互いだと知らずして対決することになります。

 ではバーニィが生存する可能性はどういったものか、検証しましょう。バーニィは高校卒業と共に徴兵され、わずかな訓練期間で実戦に投入された正規兵です。ザクII改を操ったものの、初戦で機体を撃破され、脱出後、特殊部隊「サイクロプス隊」に加わります。注目すべきは「初の実戦でも、損傷機を冷静に操り、学校などにぶつからず、安全地帯に不時着させている」操縦センスです。

 バーニィは「サイクロプス隊」の一員として、新型ガンダム「アレックス」を破壊する「ルビコン作戦」に従事するも、作戦は失敗に終わります。

「ルビコン作戦」が失敗した場合は「核ミサイルをサイド6のコロニーに使用し、新型ガンダムを破壊する」と知ったバーニィは、アルに「コロニーから脱出しろ」と告げます。アルはバーニィが「エース級のパイロット」と信じていたため「ザクを修理して、新型ガンダムを破壊すればコロニーは助かる」と提案しますが、バーニィは「自分は新米で、そんなことはできない」と、拒絶するのです。

 そしてバーニィはサイド6「リボー」コロニーから脱出しようとしますが、クリスに後姿が似た女性の「嘘を押し通す根性もないくせに」という言葉を聞き「逃げずにガンダムと戦う」決意を固めます。

 バーニィはアルと協力して、連邦の機体・ジムから盗んだ部品でザクを修理し、風船などを使ってトラップを製造、アレックスに戦いを挑みます。クリスはトラップもあってガトリングガンを当てられず、接近戦に持ち込まれて、アレックスは中破します。しかし、アレックスにコクピットを貫かれ、バーニィは戦死するのです。

 この劇中描写を見るだけでも、バーニィは能力が高い兵士と言えます。高校卒業後、わずかな訓練でモビルスーツ操縦を習得したのもそうですが、連邦軍兵器から部品を盗んでザクを修理したり、トラップを意図通り成功させたりしている手腕は見事でしょう。また性能でもパイロットの技量(クリスは優秀なテストパイロット)でも圧倒的に上なアレックスの射弾を回避し続けるのも、才覚を感じさせます。

 そうしたバーニィが、アルの言い分を拒絶し、アレックスとの戦いを避けた場合、どのような行動選択肢があるでしょうか。

 ひとつ目は、劇中でバーニィが言及している「警察か連邦軍に、サイド6への核攻撃が迫っていることを通報する」という選択肢です。

 バーニィがジオン兵であることは、所持品から容易に立証できますし、直前にコロニー内でモビルスーツ「ケンプファー」が、アレックスと対決しているのですから、バーニィの発言が疑われることはないでしょう。

 ただ、バーニィは劇中で「スパイ行為が発覚したら死刑だ」とアルに言っています。「サイクロプス隊」の末端兵士で、連邦軍に有益な情報も提供しているバーニィを「死刑」にしたら、情報提供者はいなくなりますから、死刑にはならないと思いたいところですが、劇中描写ではサイド6の連邦軍がどういった存在か分からず、難しいところです。

 サイド6の連邦軍が怪しい存在なのは、時系列でも感じるからです。ジオン側が「サイクロプス隊」に、アレックス破壊を命じたのは0079年12月6日です。この前日(4日説もあります)に、連邦軍のホワイトベースとジオン軍のザンジバルがサイド6に入港しています。アレックスがサイド6に移送されたのは、その6日後の12月11日です。

「6日後に、アレックスがサイド6に輸送される」なら、通常は「ホワイトベースに通告し、出港を待たせる」、あるいは「ホワイトベースにアレックスを迎えに行かせる」でしょう。そうではないようなので、連邦軍がいない建前の、サイド6秘密基地にアレックスを運ぶ意図が不明です。

 また、12月13日にサイド6駐留の連邦軍部隊が「サイクロプス隊」とコロニー内で交戦しています。星一号作戦を控えたこの時期に、後方かつ中立コロニーにジムスナイパーII、ガンキャノン量産型などの最新鋭モビルスーツが配備されているのです。「MS戦闘に慣れたホワイトベースに最新鋭機を引き渡す」といった動きも見られません。

 なお、マグネットコーティングを施したガンダムはアムロがテストしています。ですからクリスではなく、教育型コンピューターにも慣れているアムロがアレックスをテストした方が、すぐ実戦投入できたでしょう。このように「ホワイトベースにアレックスを送り届けたい」なら、連邦軍の行動は不自然と感じます。

 ですから、中立国に連邦軍の新型ガンダムや最精鋭部隊を置いた真の目的は「サイド6政府に外交圧力をかけ、場合によっては制圧」ではないでしょうか。1年戦争の終戦協定がサイド6の仲介で成立しているので、中央の意向とは断定できませんが、この時期でも連邦軍の一部は軍閥化しており、独断的行動をもくろんでいたのかもしれません。

 独断と考えるのは、サイド6がホワイトベースを待たせずに1日で追い出しているからです。「中立地域に秘密基地建設と艦隊駐留を認める」ほど、連邦とサイド6がズブズブなら、ホワイトベースに便宜を図ったでしょう。ホワイトベースを管轄する連邦軍最高指揮官のレビル将軍は「ポケットの中の戦争」として報告を軽視し、そのまま戦死したので、サイド6と一部の連邦軍との密約はウヤムヤにされたのではないでしょうか。

 この場合は、連邦側の中立破りの生き証人になりそうなバーニィは、証拠隠滅で殺害されてしまう可能性も否定できないところです。

 なお、バーニィが「リボー」コロニーから、同じサイド6の「フランチェスタ」コロニーに逃亡した場合は、どうなるでしょうか。

 こちらは、逃亡が成功するでしょう。偽造パスポートを所持していますから、終戦までの10日ほど潜伏すれば、サイド3に帰国する道筋も見えてくると思われます。戦争終結後、自国に戻り、晴れてアルのいる大好きな「リボー」コロニーに移住して、退役して故郷に戻ってきたクリスと出会えたかもしれません。

 バーニィが「戦わずに逃げた」としても、切ないことに劇中通り、核ミサイルを保有していたジオン艦隊は撃破され、サイド6は無事だったでしょう。

『機動戦士ガンダム0080』は、こうした戦争の悲しさと、運命の非情さを描き切っているから、名作なのだと思う次第です。

(安藤昌季)

【画像】美樹本晴彦氏のキャラデザも美しい『ポケットの中の戦争』(4枚)

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