西島秀俊主演『仮面ライダーBLACK SUN』は賛否を呼ぶ? 現実社会を投影した特撮ドラマ
「731部隊」を彷彿させる人体実験シーン
すでに『仮面ライダーBLACK SUN』を視聴した人たちのSNS上の声を聞くと、現実社会をトレースしたかのような世界観が賛否を呼んでいるようです。これまでの特撮ドラマにはない面白さを感じた人もいれば、日本の政界や世相を風刺した内容についていけない人もいるようです。
光太郎こと「ブラックサン」が戦うことになる怪人組織「ゴルゴム」は、政治団体のひとつとして描かれています。「ゴルゴム」の幹部であるダロム(中村梅雀)やビルゲニア(三浦貴大)は、エリート政治家である堂波総理(ルー大柴)からの汚れ仕事を請け負うことで、「ゴルゴム」の存続を許されています。
人間と怪人が平和に暮らす社会の実現を訴える少女・葵(平澤宏々路)もいれば、怪人たちをバッシングするヘイト集団のリーダー・井垣(今野浩喜)もいます。ブラックサンと怪人たちの戦いだけでなく、人間同士がいがみ合う様子も描かれています。
光太郎と信彦が青春を過ごした1972年は、子供たちの間で『仮面ライダー』が大ブームだった時代ですが、学生運動が終焉を迎えた時代の変換期でもありました。光太郎たちの苦い青春を描いた回想シーンに加え、物語の鍵を握る「創世王」の誕生秘話は戦時中にまでさかのぼります。人体実験の描写は、日本帝国陸軍に実在した研究機関「731部隊」を彷彿させ、かなりショッキングなものとなっています。
「仮面ライダー」生誕50周年記念企画のひとつである『仮面ライダーBLACK SUN』ですが、白石監督は戦後の日本社会の闇を「怪人」=社会から迫害された者たちの目線から描こうとしたようです。
シャドームーンが覚醒するのは第8話から
オリジナル要素が強い『仮面ライダーBLACK SUN』は、特撮ファンとしても見逃せないものになっています。誰が敵か味方か分からない展開が中盤まで続きますが、中村倫也さん演じる信彦が人間を憎み、怪人たちを守るために「ゴルゴム」の新しいリーダーとなる第8話前後から、物語は大いに盛り上がります。葵を守るために「ゴルゴム」と戦っていた光太郎と、宿命の対決へと向かいます。
最終話となる第10話では、西島秀俊さんと中村倫也さんは同時に変身ポーズを決め、ブラックサンとシャドームーンとなって対決します。このふたりの激突シーンは、ゾクゾクするものがあります。
善と悪との間には境界線はなく、あるのはお互いの立場の違い、守るべき信念の違いだけです。白石監督が描いた『仮面ライダーBLACK SUN』の生々しい世界観は、今後の「仮面ライダー」シリーズに大きな爪痕を残すことになるのではないでしょうか。
これだけ自由度の高い『仮面ライダーBLACK SUN』になっただけに、庵野秀明監督による『シン・仮面ライダー』(2023年3月公開)も相当にぶっ飛んだ世界になることが予想されます。
(長野辰次)
※本文の一部を修正しました。(2022年11月6日 15:36)