ゲーマーを愕然とさせた「スクウェア三大悪女」 後味悪い「NTR展開」も
「3人目」は意見が割れる?

●典型的な「救われる王女」から脱した「アリシア」
ふたり目の悪女は、こちらもスーパーファミコンソフトの『ライブ・ア・ライブ』に登場した「アリシア」。本作は複数の世界にそれぞれ主人公がいますが、その7つの世界をクリアすると物語の核心に迫る「中世編」の幕が開けます。アリシアは、この中世編のヒロインです。
ヨヨと同じくアリシアも王女という立場にあり、ごく一部の限られた者以外は言葉を交わすことも叶いません。ですが、武闘大会に優勝すれば、求婚が許されると知り、中世編の主人公「オルステッド」がこの大会に参加しました。
この大会に参加したオルステッドは、親友のストレイボウをも下して見事優勝。そしてオルステッドは彼女に求婚し、アリシアは快く応じました。ほかの誰よりもオルステッドを信じると誓うアリシア。それは、新たな愛が生まれた瞬間でした。
しかし、突如現れた魔王により、アリシアがさらわれてしまいます。共に過ごした時間こそ短いものの、オルステッドにとっても彼女は大事な相手。ストレイボウや仲間たちと共に魔王の討伐と王女の救出に挑みます。
その結果、彼女をさらった魔王を討伐するも、実は偽物だったと判明。その驚きが収まる間もなく大地が崩れ始め、アリシアを見つけるどころかストレイボウが崩落に巻き込まれる事態に。かろうじて生き延びたオルステッドですが、予期せぬ不幸に次々と襲われ、武闘大会に優勝した時の華々しい名誉や誇りは見る影もありません。
しかし、オルステッドにはまだやるべきことがあります。助けを待ち続けているであろうアリシアを救う──仲間に背中を押され、オルステッドはもう一度、魔王がいる山へと挑みました。
ですが彼を助けたのが仲間なら、残酷な事実を突きつける相手もまた、オルステッドの大事な仲間でした。崩落に巻き込まれたはずのストレイボウが姿を現し、すべては自分が行ったことだと告げたのです。
オルステッドへの妬みから、ストレイボウは彼を絶望に叩き落そうと画策。その感情に支配された親友に、もはや言葉は届きません。ただ戦いだけがふたりの間にあり、勝利したのはやはりオルステッドでした。あの大会と同じように。
空しい勝利を得た直後、探し求めたアリシアがそこに姿を見せました。魔王は倒れ、王女が救われる。御伽噺のような結末を迎えた……と思った瞬間、アリシアが口走ったのはオルステッドに対する糾弾でした。
さらった後、ストレイボウがその心の内を彼女に明かしたのか、その劣等感や苦しさを本人以上の激しさで訴えるアリシア。「あなたには、この人の……負ける者の悲しみなどわからないのよッ!!」と、叩きつけるようにオルステッドをなじります。
しかもアリシアの激情は、言葉だけでは収まりません。思いの丈をぶつけるだけぶつけると、「わたしがずっと一緒にいてあげる!」と告げ、短剣を自らの身に突き立てます。ストレイボウへの想いは、同情や憐憫に留まらず、その命すら投げ出すほどだったのです。
──魔王を討伐し、王女を助ける。単純至極と思われた物語が描いたものは、愛を誓ったはずのアリシアの豹変、そして命すら捨ててストレイボウに寄り添う激しい想いでした。
アリシアにも事情や経緯があったのだとは思いますが、オルステッドからすれば、純粋に信じていた愛情や友情を一方的に裏切られ、ただひとり残されただけ。その怒りや悲しみをぶつける相手すらおらず、行き場のない感情が渦巻くのみです。彼の立場で中世編を遊んでいたプレイヤーも、ただただ戸惑うほかありません。
前述のヨヨと共通する部分も多いものの、ヨヨは物語の全般にわたって登場し、悪女ぶりを積み重ねていきました。しかしアリシアの出番は少なく、冒頭とラストのみ。その短い機会で、特大のインパクトを残した点は、ある意味見事と言うほかありません。悪女として名を連ねるのも、無理のない話でしょう。
●意見が分かれる3人目の「悪女」
「スクウェア三大悪女」ですが、実は3人目については意見が分かれる向きがあります。というのも、前述したふたりの悪女評価が高過ぎて、それに匹敵するほどの悪女が見当たらないためです。
そのなかでも比較的多くの意見を集めているのが、PSソフト『ファイナルファンタジーVIII』の「リノア」。軍の重要人物を父に持ちながら、レジスタンス組織に身を置くなど、立ち位置もちょっと特別な本作のヒロインです。
主人公の「スコール」は寡黙で人を避けがちですが、そんな彼すら巻き込むポジティブさを発揮するリノア。その前向きな行動力を「活発」と捉えるか、「わがままでウザイ」と見るかで、彼女への評価が大きく変わります。
またセリフも独特で、「私のことが……好きにな〜る、好きにな〜る」「おハロー」「ハグハグ」など、記憶に残る言い回しが多数。こうした言葉のチョイスもまた、賛否両論の的となりました。
感情豊かで、自分なりの芯を持ちながら、若さゆえの甘さや至らなさも持つリノア。それは等身大の若者らしさとも言えますが、スコールにとっては自分を翻弄する相手とも捉えられます。プレイヤーはスコール目線になりやすいので、そちらに気持ちを引っ張られてもおかしくはないでしょう。
とはいえ、前のふたりと比べると悪女感という面では弱め。ちゃんとスコールとの関係を縮めていきますし、ヨヨたちと違って心を裏切ることもありません。彼女に惹かれるかどうかはプレイヤー次第ですが、「三大悪女」の数合わせの面が否めない人選とも言えます。
人によっては、リノアではなく『魔界塔士Sa・Ga』の「ミレイユ」を三大悪女に加える場合もあります。レジスタンスの一員だったミレイユは、敵対する組織に捕まってしまい、姉の「ジャンヌ」が主人公たちに助けを求めました。ですがミレイユは、捕まったフリをして敵側に寝返っていたことが判明します。
「わたしはつよいものがすきなだけ。レジスタンスなんてまっぴらよ!」と言い放つミレイユ。この衝撃的なセリフに、主人公(=プレイヤー)は驚くばかりです。ですが、衝撃的な展開はまだ続きます。
敵の組織に寝返ったミレイユは、しかし一方的に利用されていたに過ぎず、用済みになった途端殺されそうになりました。そんな彼女の代わりに、かばったジャンヌが死亡。全く想像していなかった悲劇を、ミレイユは目の当たりにします。
激しい感情の行き場がなかったのか、敵を倒してくれた主人公に向かって「はやくきえて!」と、激情を浴びせるミレイユ。気持ちは分かりますが、彼女の行動がこの結末を迎えた一因でもあります。こうした身勝手さから、彼女を三大悪女のひとりに数える人もいます。
ですがミレイユは、後に自分の行いを振り返り、反省する姿も見せました。寝返った行為は問題かもしれませんが、自分の身を守るひとつの手段として考えると少なからず理解はできます。こうした事情から、ミレイユを悪女とする決め手がやや弱く、「三大悪女」の3人目は意見の分かれるところです。
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RPG黄金期には、王道的な作品が数多く作られました。そのため、一味違うものを目指す流れが生まれるのはごく自然な話ですし、制作の意図とプレイヤーの受け取り方に食い違うことも稀ではありません。
プレイした当時に衝撃を受けたのも事実ですが、だからこそ忘れられない思い出になったのも事実。単純な良し悪しだけでは括れない「悪女」たちを、この機会に振り返ってみてはいかがですか?
(臥待)