『鬼滅の刃』の聖地・丹波山村に何がある?山梨なのに実質東京都のナゾ 幻のリゾート計画も
炭治郎と禰豆子は登ったけれど……雲取山の登山は「十分な準備を」

山梨県丹波山村に入ると、竈門炭治郎の着物柄を思わせる市松模様の幟(のぼり)があちらこちらに見えてきます。雲取山・鴨沢登山口最寄りのバス停あたりでも、同様の旗や幟が何本もはためき、『鬼滅の刃』聖地としてのほんのりしたアピールぶりがうかがえます。
この市松模様は、集英社から商標登録の申請が出されたものの、特許庁は「いわゆる(一般的な)『市松模様』の」一種」として却下。「鬼」「滅」などの文字を入れなければデザインを使えるそうで、よく見ると入っている文字も「丹波山村 雲取山」となっているなど、「あぁ、ちょっとだけ気を遣ったんだな」と思わせるものです。
なお、もちろん作品はフィクションなので、鴨沢登山口から雲取山に登っても「竈門家」などはありませんが、それでも登山しようとするファンが多いのだとか。しかし村の方のお話によると、標高2017メートルもあるこの山は「少なくとも初心者向きではない」とのこと。
慣れた人でも頂上まで5時間ほどかかり、自信がない方は山小屋「雲取山荘」での1泊(要予約・シュラフなど寝具持参の必要あり)は見ておいた方が良いそうです。なお雲取山は他に「ヤマノススメ」「山と食欲と私」などの作品にも描かれ、登場人物はいずれも無理のない行程をとっています。
しかし近年は「とりあえず炭治郎の故郷に行ってみよう!」と軽装で登ろうとする人びとが後を絶たず、村でも注意を呼びかける見張りを立てているのだとか。確かに原作第1話・第2話で炭治郎と禰豆子が雪山を下っているものの、「あれは事情が事情だけにねぇ……」 と、その見張りの方と世間話をしてきました。
なお、この登山口から少し西側の「道の駅たばやま」では、公式の『鬼滅の刃』グッズや、既視感がある市松模様ラベルのミネラルウォーターも購入可能です。かつ、雲取山麓のイノシシを加工したソーセージ・フランクフルトも味わえ、登らなくても十分に雲取山の自然を楽しむことができます。
「西武グループ」の一大観光拠点になるはずだった?

雲取山のふもとは今はとても静かですが、「『鬼滅の刃』聖地」となる50年も前に、首都圏有数の一大レジャーゾーンに変貌を遂げようとしていました。1957(昭和32)年に完成した小河内ダムは都内からのアクセスが良いこともあり、「東村山音頭」でも謳われた「多摩湖」(村山貯水池。1927年に完成)のような「ダム湖沿いの観光スポット」としての役割も期待されていたのです。
この地の観光開発に名乗りを挙げたのは、現在も首都圏に鉄道網やホテルなどを展開する西武鉄道グループです。同社は当時の国鉄氷川駅(現在のJR奥多摩駅)から工事現場まで建設されていた貨物線(東京都水道局小河内線。通称「水根貨物線」)を1963(昭和38)年に1億3000万円で買収。西武新宿駅から新宿線・拝島線を経由して国鉄青梅線に乗り入れ、小河内ダムのほとりにあった「水根駅」まで直通する特急の運行を計画していました。
もし計画が実現していれば、いまは川越・秩父方面を結んでいる10000系「ニューレッドアロー」や001系「ラビュー」あたりの特急車両が、西武新宿から奥多摩湖までを(たぶん)2時間程度で結んでいたのではないでしょうか。
そして当時の運輸省に提出された計画書によると、終点・水根駅の周辺はホテル(おそらく「プリンスホテル」か?)やケーブルカー乗り場を備えた一大ターミナルとなり、さらに湖を取り囲むように、キャンプ場やロープウェイ・ヘリポートなどの整備を目論んでいたようです。