『銀河英雄伝説』祖国を救うため、ヤンがクーデターを起こしていたら? 結末を考察
1982年より執筆され、2回アニメ化されたベストセラーSF小説『銀河英雄伝説』。自由惑星同盟軍は、現実性が乏しい冒険的な軍事計画を立てたトリューニヒト政権により、アムリッツアで大敗を喫します。名将ヤンは、シェーンコップに「クーデターで政権を打倒すべき」と提案されます。実行したらどうなったでしょうか。
同盟の不利は変わらない?

累計発行部数1500万部。アニメ、マンガ、ゲームなどの題材にもなった、ベストセラーSF小説『銀河英雄伝説』。宇宙歴796年、銀河帝国のイゼルローン要塞を攻略した自由惑星同盟は、帝国の民衆を「解放」するとして、大規模な侵攻作戦を行います。
9個艦隊3000万人の将兵を投入した大作戦でしたが「帝国の民衆は、同盟軍を解放軍として迎え、協力してくれるに違いない」という、ご都合主義な目算で立てた杜撰な侵攻計画でもありました。ラインハルトは「同盟軍が侵攻しそうな星域の物資を根こそぎ持ち去り、補給負担を強いる」という作戦で対抗します。
同盟軍は「補給線の短い、確実に確保できる星域だけを占領し、焦土作戦を採ったラインハルトの非道さを宣伝する」などの対抗手段は取らず、侵攻星域をむやみに広げたため、補給線は伸び切り、戦力分散と物資不足に陥ります。
帝国軍の反撃で同盟軍は大敗し、将兵2000万人を失いました。それだけでなく、翌宇宙歴797年には大敗を受けて敢行された、救国軍事会議の軍事クーデターも起こりました。
同盟軍の名将ヤン・ウェンリーは「救国軍事会議の軍事行動は、民主主義を否定する専制主義」として、第11艦隊と、同盟首都である惑星ハイネセンを守る防衛システム「アルテミスの首飾り」を撃破します。
なお、自由惑星同盟の政権は無能で先見性に乏しく、軍部は硬直化した思考の持ち主が上層部でした。そのため、ヤンの側近であるシェーンコップは「軍事クーデターを起こして政権を取るべき」と進言します(シェーンコップはヤンがシビリアンコントロールを外れる行動を忌避することを知っていつつ、発言しているようですが)。
もし、ヤンの性格が劇中と異なり「祖国を救うためには、クーデターもやむを得ない」と軍事行動したら、その後、どうなったでしょうか。
クーデター自体は、ヤンとその幕僚たちの能力であれば、難しくはないでしょう。ただし、政権を掌握した後で、ヤンに同盟軍が従うかと言えば、微妙なところです。
特に同盟軍宇宙艦隊司令長官であるアレクサンドル・ビュコックは、救国軍事会議のクーデターに「救国だの情熱だのといった美名の下に、無法な権力奪取を正当化しているように思えるが」と発言するような人物ですので、ヤンに協力しないでしょう。
この場合、同盟軍の軍備はクーデター軍とそれ以外に分裂します。その好機を逃すラインハルトではないでしょうから、同盟の滅亡確率を上げるだけでしょう。
もし、同盟軍がヤンに従ったとしても、そもそも同盟の人口は130億人で、帝国は250億人。アムリッツアで大敗した同盟軍は総戦力で大きく帝国を下回ります。防備に徹して戦力を回復させたいところですが、ラインハルトはそれを許さないでしょう。
ヤンは優れた頭脳を持ちますから、防備されたイゼルローン回廊ではなく、無防備な中立地域フェザーンから帝国軍が侵攻してくることを予測できるかもしれません。
しかし、同盟軍はガイエスブルグのような移動式要塞は持ちませんし、現実には、翌年の宇宙歴798年に帝国軍の同盟領土侵攻作戦≪神々の黄昏≫が行われますから、防備を固めるヒマもなく、いかにヤンと言えど「首都も放棄して、ゲリラ戦で補給線を叩く」などで正面決戦を避け、前線に出てきやすい総司令官のラインハルトを戦場で討ち取るくらいしか、手だてはなかったかもしれません(クーデターなので、同盟政府の停戦命令はありませんから、ラインハルト自体を討ち取ることはできたかもしれませんが、それで帝国が侵攻を断念するかは、また別の話と言えます)。
結論として、ヤンが軍事クーデターを起こしても、自由惑星同盟を助けることはできず、ヤンの救国軍事同盟への批判「専制とはどういうことだ? 市民から選ばれない為政者が権力と暴力によって市民の自由を奪い支配しようとすることだろう」を、自ら実行して、民主主義国家としての同盟を劇中より早く終わらせ、末尾を汚しただけに止まると思われます。
(安藤昌季)














