2022年に大躍進『スパイファミリー』 人気爆発の理由は「かつてないパターン」「寸止め」
『SPY×FAMILY』の魅力はあえて描かない「寸止め」にあり

『SPY×FAMILY』がより広い層に受け入れられた理由。それに関して色々あると思いますが、筆者なりのポイントをいくつか挙げていきましょう。
もっとも重要だったポイントは、シリアスとギャグの黄金比とも言えるバランスの良さです。この点は近年の人気作品はおおむねこういった傾向にあるのですが、本作ならではの注目点がありました。それは本作が基本、コメディ作品であることです。
昨今の人気作品はバトルものであることが多く、ギャグ面があっても本質はシリアスな物語でした。しかし本作『SPY×FAMILY』はその逆に、コメディにバトル要素を盛り込んだ作品です。ストーリーの骨子もシリアスな作りにしていました。
スパイである「黄昏」ことロイド・フォージャー、「いばら姫」の名を持つ殺し屋ヨル・フォージャー、他人の心が読める超能力者の少女アーニャ・フォージャーの主要キャラ3人も、普段見せるギャグの顔とは別にシリアスで暗い過去があります。この二面性も魅力のひとつでしょう。
ただシリアスと言っても、あくまでも笑える範囲に抑えているのが本作の絶妙な味付けです。たとえばロイドやヨルが人を殺す場面はさりげない描き方をしており、時には笑える要素で濁しもしていました。
その反面、物語のストーリー進行における部分はシリアス度が高く、時にはハラハラドキドキさせてコメディだということを忘れさせるほどの緊張感を生みます。こういった基本的にはコメディだけど、シリアスな要素が入る作品は最近なかったかもしれません。
ここで重要なこととして、メインキャラクターが死亡退場することがないのが注目点でしょう。たとえば『鬼滅の刃』ですと、バトルものだけに死亡退場者が多く出ます。それとは真逆で、『SPY×FAMILY』はそういった心配はありません。あくまでも今後の展開で何が起こるかは分かりませんが、コメディ作品でそういった心配はほぼないでしょう。
そして恋愛要素に関して、読者や視聴者の想像に任せている点も人気の秘密ではないでしょうか?
疑似夫婦であるロイドとヨルの恋愛関係には踏み込んでも、一定以上には進まないという展開が何度かありました。家族であるということが作品のポイントなので、この関係に男女としての進展がないのは大きな意味を持たないのかもしれません。しかし、この部分での展開は見ている方としては気になるもの。こういった部分に明確な答えを出さずにファンの想像に任せるというのは巧みな作劇ではないでしょうか。
この部分はアーニャとダミアン・デズモンドの関係にも当てはまります。年齢的には恋愛というには幼くもありますが、ラブコメ的な要素を匂わせるものの明確な答えを出さない方式は一緒でした。
それとは反対に、強すぎる愛としてユーリ・ブライアやフィオナ・フロストといった恋愛のギャグ要員を配置しているのも絶妙でしょう。こういったことから二次創作の世界では人気があるらしく、さまざまな想像がされているようです。このようにファンの想像をかき立てるというのは、作者である遠藤達哉先生の思惑なのかもしれません。
今後の展開も気になる『SPY×FAMILY』ですが、今の人気が数年は続くことは間違いないでしょう。昨今のコラボする企業や団体の増え方は、すでにブームが長く続くことを証明しているようなものですから。
(加々美利治)