『サザエさん』の個性派髪型 どうやって注文? 調べてわかった「意外なリアリティ」
『サザエさん』に登場する人びとは実に個性的な髪型をしています。美容室で何と注文すれば良いのでしょうか? 髪型の歴史と一緒に紹介します。
今でこそ奇抜髪型だが…連載開始当時は?
国民的アニメ『サザエさん』(原作:長谷川町子)は、戦後日本を象徴する作品である一方で、昭和、平成、令和と時代を経るにつれ、彼女たちのヘアスタイルに関する「ツッコミ」の声は増える一方です。
この令和の時代に、フグ田サザエを筆頭に『サザエさん』世界の人びとのヘアスタイルは、なるほど個性派と言わざるを得ないでしょう。もし彼女たちのようなヘアスタイルにしたいと思ったら、どのように美容室で注文すれば良いのでしょうか。髪型のモードとあわせて解説します。
サザエさんの、まるで頭部より三方向に手が生えたかのような髪型は、現在の視点から見れば奇抜です。しかし劇中で誰かが彼女の髪型を揶揄(やゆ)するような場面は見られません。ということは、あの世界においてはさほど不自然ではないということ。そんな馬鹿な。ということで調べてみましょう。
原作『サザエさん』の連載が「夕刊フクニチ」で開始されたのが昭和21年(1946年)。サザエさんのあの奇抜とも言えるヘアスタイルはこの当時、実際に流行していたものです。
名称としては「ヴィクトリーロール」、あるいは「モガヘアー」の一種ととらえるのが最も近いかもしれません。いずれにせよ、団子状に見えるものはクルンとカールさせたものであり、原作、アニメではそれが誇張されているようです。結論としてサザエさんの髪型は奇抜でもなんでもなく、流行に敏感な若い女性らしいものだったのです。
重要なのは、『サザエさん』独自の誇張表現をどうとらえるかという点です。例えば、波平の髪の毛を1本残し、それが目視可能なほどにうねらせることは、髪の毛1本の細さを考えれば極めてファンタジーな表現であることがわかります。この距離感を保持しつつ、他のキャラクターも見ていきましょう。
むしろ最も不思議なのは『サザエさん』でよく見られる髪型
タラちゃん、カツオの親友・中島など『サザエさん』ワールドで時折見られる、あの前髪残しの髪型はどうとらえればよいのでしょうか。
斜めアングルが多いため、一見するといわゆる「大五郎カット」のようにも見えますが、真正面から見ると綺麗な坊ちゃん刈り。真横からみると頭頂部のやや後ろまでしか髪の毛はありません。タラちゃんも中島も見る角度によって髪型が異なる、玉虫色のヘアスタイルの持ち主だったのです。
とはいえ、これも「誇張表現」がなせる業(わざ)。かりに美容室で注文するのであれば、「前髪をたっぷり残し、後ろは頭頂部ギリギリまで刈り込んでください」と、攻め果てたツーブロックをお願いすることになりそうです。
さてそうなってくると、異質ぶりが際立ってくるのがカツオと中島の担任の先生の髪型です。坊主頭の上に電話帳を広げたような、なんとも形容しがたいあのヘアスタイル。数少ない後ろ姿を確認する限り、後ろも頭頂部ギリギリまで刈り込んであります。
やはり今見ると奇抜に映りますが、これも調べる限り戦時中に推奨された、非常時に短時間で刈り込める「翼賛型」の名残と見ることもできそうです。なお実際に美容室で注文するなら、厳密には異なりますがバーバースタイルの「センターパート」が近いでしょう。
いずれにせよ『サザエさん』は戦後直後に開始した作品。アニメならではの誇張表現をほぐしていくと、そこには意外な戦後のリアリティが隠されていたのです。
(片野)