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専門家が太鼓判、『ドラえもん のび太の恐竜』は古生物学の進歩が分かる本格恐竜映画

注目ポイントは「歯」と「歩き方」

 例えば、ドラえもんたちがティラノサウルスに襲われるシーン。

「旧作で描かれるティラサウルスの歯はむき出しで、いわゆる“ゴジラ歩き”で、直立で尻尾を引きずって歩いています。しかし、リメイク版では、口を閉じると歯が見えなくなっており、歩き方も前傾姿勢で頭と尾が水平になるような形で立って歩いています」

 これは旧作が「間違っていた」わけではないと、大渕さんは話します。

「1980年代の恐竜研究の学説ではそれが正しかった。でも、研究が進み、ティラノサウルスの本来の姿が明らかになってきました。

 ティラノサウルスはどう猛な肉食動物だというイメージから、その印象を与えるような、口から歯がはみ出すよう顔で描かれていることが多かったのです。しかし、それでは口が半開き状態になり、呼吸とともに多量の水分が失われてしまうという不都合が生じます。

 歯がむき出しの動物はワニ類くらいものです。ワニがなぜそうなっているのか、それで不都合がないのかは、『ワニと龍』という本に詳しいのでここでは割愛します。ともかく、のちの研究で、恐竜にはくちびるがあり、歯はそれにきちんと覆われていたことが分かっています」

左が旧作で描かれた恐竜の姿。くちびるがなく、歯がむき出しになっている(イラスト:大渕希郷)
左が旧作で描かれた恐竜の姿。くちびるがなく、歯がむき出しになっている(イラスト:大渕希郷)

 では、歩き方についての学説はどのように変化したのでしょうか。

「これまで2足歩行の恐竜類の姿勢の復元案が何度も改修されてきました。1900年代では後ろ脚と尾で体を支えるような、カンガルー型の復元図。1960年代では、体重を支える尾への依存度が少し下がり、胴体も水平に近くなってはいますが、やはりゴジラ的な復元。

 1980年代以降になると、頭から尾まで水平に復元されています。これは、研究が進み、恐竜がそれまで考えられてきたよりも活動的な動物と分かってきたからです。1900年代や1960年代の姿勢では、ゆっくりとしか動けません。

 特に1900年代の復元では小股でしか歩けないことがシミュレーションで分かっています。結局、尾を水平に保ってさえいれば、動いていても、じっとしていても、体幹が安定できることが分かりました」

「恐竜の立ち姿」の学説は年代ごとに変化していった(イラスト:大渕希郷)
「恐竜の立ち姿」の学説は年代ごとに変化していった(イラスト:大渕希郷)

 旧作の恐竜が“ゴジラ姿”で描かれたことについて、大渕さんは「時代背景を考えると理解できる」と話します。

「『のび太の恐竜』のコミックスは1983年に初版が出ています。連載はそれより前だったことを考慮すると、ちょうど新しい研究成果が出たばかりのころです。かつ、今よりずっと最新の学説が一般に普及するまで時間がかかった時代であったことを考えると、マンガや旧・映画版でゴジラ型復元だったのは無理もない話です」

新作と旧作でこんなに違う、恐竜の描かれ方

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