最初は全然違う? 人気マンガの構想段階のウラ話 「今となっては読んでみたい」
アニメ化や実写化も果たした人気のマンガでも、構想が固まる連載前は紆余曲折を経ていることも珍しくありません。編集担当のアドバイスや意外な事実を知ったことにより、大きな変更を経たマンガの裏話に注目しました。
全く違うテイストの作品になっていたかも
ヒットした数々のマンガの背景には、作者の生み出したアイデアに編集担当のアドバイスが加わっていることも少なくありません。
たとえば『鬼滅の刃』の初代担当編集者の片山達彦さんは、同作の代名詞とも言える「呼吸」の名称に関して、吾峠呼世晴先生がもともと決めていた「鱗滝式呼吸術」を「ダサい」と一蹴し、その結果、「○○の呼吸 〇の型」という現在の形が生まれています。また、片山さんは連載10話も行かないうちに担当変更となりますが、その前に吾峠呼世晴先生とその時点での『鬼滅の刃』の全体の大まかな流れや登場人物を、話し合って決めていました。
このことは、公式ファンブック「鬼殺隊見聞録・弐」に収録されている描き下ろしマンガ『鬼滅の土台』で明かされ、『鬼滅』ファンの驚きを呼んでいます。もし片山さんがいなければ、『鬼滅の刃』は大きく違う作品になっていたかもしれません。
このほかにも、ヒットしたマンガには、初期のアイデアとして全く異なる設定やストーリーが作られていたケースも見られます。今回は、構想段階のままなら、全く違うものになっていたかもしれない作品の一部を紹介します。
●新連載のアイデアは「将棋かボクシング」の2択だった『3月のライオン』
将棋マンガ『3月のライオン』(作:羽海野チカ)は、2007年より「ヤングアニマル」で連載がスタートし、アニメ化や実写化も果たしました。作者の羽海野先生はそれまで、美大を舞台にした恋愛マンガ『ハチミツとクローバー』を描いていたこともあり、新作が青年誌である「ヤングアニマル」で連載されると発表された際は、「一気に掲載誌の雰囲気が変わり過ぎじゃない?」「一体どんな作品になるんだろう」と驚く声も少なくありませんでした。
『3月のライオン』は、若くしてプロ棋士となった孤独な少年・桐山零が偶然出会った3姉妹と交流を深めていく物語ですが、連載を立ち上げた編集者・友田亮氏は、展示即売会「COMITIA」のインタビューで、当初は「全く異なるジャンル」も羽海野先生の連載候補に上がっていたことを明かしています。
『ハチミツとクローバー』の連載が終盤に差し掛かった頃、次に何を描けばいいのか悩んでいた羽海野先生に対し、友田氏は「羽海野先生は一対一の勝負モノを描くといい」という思いから「将棋かボクシング」と答えたといいます。そこで将棋に興味を持った羽海野先生との間で、『3月のライオン』の雛形となるアイデアが生まれ、連載に至りました。ちなみに「将棋が強くて孤独な少年の物語」という案は、友田氏が出したとのことです。
『ハチミツとクローバー』では、ヒロイン・はぐみが全身全霊で創作活動に打ち込むシーンもありましたが、そんな「戦い」を描く才能から「将棋かボクシング」のアイデアにつながったのかもしれません。もしも羽海野先生がボクシングの方を選んでいたら、全く別の描いたマンガになっていたでしょうが、今となってはそちらも気になります。