社会の理不尽さが学べる? 30代以上が使いがちな「ジャンプ作品比喩」の意味
国民的マンガに出てくる用語は、日常会話で「比喩」として用いられることも少なくありません。とはいえ世代間で認知度に差があるので、一応、代表的なものをおさえておきましょう。
辞典に乗せてもいい? 「慣用句」としてのジャンプ作品

一時期、年上世代のマンガ・アニメの比喩が若者に伝わらないとして、その是非を問う議論が盛んに行われました。分かりやすく伝えるために用いた比喩が、かえって世代間の溝を生んでしまうのは悲しいことです。
ただ、確かに知ってて当然のように使われたら困惑しますが、若い世代が「古い作品の例え」を知っていても損はありませんし、むしろ一目置かれるかもしれません。ということで今の30代以上が「慣用表現」「新しいことわざ」として用いがちな「ジャンプ作品の比喩」の一部を、その用例とともに改めて見ていきましょう。
まず、さすが「ジャンプ黄金期」の看板ともいうべきか、『ドラゴンボール』(著:鳥山明)関連の比喩は、日常のコミュニケーションで渦巻いています。例えば……
【仙豆】意味:わずかなきっかけで急に元気になること。それをもたらすもの。
用例:「サウナ行って仮眠したら仙豆食ったみたいにスッキリ回復した」
「仙豆」は『ドラゴンボール』序盤から登場する、1粒で10日間は何も食べなくても大丈夫なほど栄養価が高い豆のことで、怪我もたちまち治してくれます。作中では悟空たちが、何度も仙豆の力で体力を回復し、治癒しています。即効性も高く、現実は存在しえないものです。続いて……
【ヤムチャ】意味:「①噛ませ犬」「②目の前の状況を詳しく解説するポジション」
用例:「俺のミスで後輩の実力が知れ渡った。ヤムチャみたいな気分だ」
気の毒なことに、日常会話で「ヤムチャ」が登場した場合、その多くはネガティブな意味す。とりわけ彼の「①噛ませ犬」ぶりは、世界的にも有名です。一方で②のような解説ポジションの意味で、用いられる場合もあります。なお解説ポジションは他に、世代によって【『ジョジョ』のスピードワゴン】【『男塾』の雷電、月光】【『キン肉マン』のテリーマン】などの比喩が使われることもあるので、おさえておきましょう。
少し世代は下がります。『HUNTER×HUNTER』(著:冨樫義博)関連の比喩もまた、現在の30代以上が隙あらば用いてくる可能性があるので、要注意です。
【ハンター試験】意味:「①気づけば本番が始まっていること」「②まったくジャンルの違う試練が団積みになっていること」
用例:「気づけば最悪の営業チームに入れられていた。ハンター試験かと思った」
『HUNTER×HUNTER』の序盤を飾る「ハンター試験」は、実に幅広い意味を持ちますが、なかでも「①気づけば本番」は社会生活のなかでも往々にして起こることです。
この比喩を用いられた瞬間の後輩もまた「①気づけば本番」であり、「ハンター試験」に近い状況です。比喩を用いた側は自覚しましょう。なお『HUNTER×HUNTER』という作品は、それだけで「みんなが待ち望んでいるもの」「休みが多い」と多岐にわたる意味合いを帯びる凄まじい作品です。
なお『HUNTER×HUNTER』は発表形式を、週刊連載から別形態に変更する旨が発表されております。今後、『HUNTER×HUNTER』という言葉が帯びるニュアンスが、どう変化するのもまた楽しみです。
また、『DEATH NOTE』(原作:大場つぐみ、作画:小畑健)からは、すでにこんな言葉が慣用表現として日常に定着しはじめています。
【ジェバンニ】意味:不可能を可能にすること。短期間で驚きの成果をあげること。またはそれができる人。
用例:「ふざけるな。俺はジェバンニじゃねえ。」
ジェバンニとは『DEATHNOTE』の第2部で登場した、キラ捕縛のための特殊組織「Secret Provision for KIRA(SPK)」の一員、ステファン・ジェバンニのことです。とにかく有能であり、作中では魅上照が用いたデスノートの偽造を、なんと「一晩でやってくれました」。この彼の超人的働きを説明したニアのセリフがネットスラング化し、上記の意味をもつ慣用表現となりました。
ジェバンニも、仙豆も、そんな都合の良い存在は実社会には存在しません。本当にあるのは「ハンター試験」のような困難と、「ヤムチャ」のような状況ばかりです。乗っかるかは別として、年上世代の用いる比喩の意味くらいは知っておいてあげてもいいかもしれません。
(片野)