ガンダムのトリコロールカラーは軍用兵器とは思えない? わざわざ「目立つ色」をしている理由
人気アニメ『機動戦士ガンダム』には、さまざまな異名を持つエースパイロットが登場します。「白い悪魔」「赤い彗星」「青い巨星」「黒い三連星」「真紅の稲妻」など、色にまつわる異名を持つパイロットは、機体もその色で塗られています。エースたちはどうして目立つ色の機体に乗りたがるのでしょうか。
白や赤のMSだと目立って不利そう
『機動戦士ガンダム』は、作りこまれた設定と、数多く発表された作品群がお互いを補完する、大河ドラマ的な重厚さを持つ作品です。戦争の中に身を投じたパイロットたちの人間性も描きこまれ、エースパイロットは「赤い彗星」シャア・アズナブル、「白い悪魔」アムロ・レイのように、異名を持って呼ばれることも多くあります。
特に、ジオン軍ではその傾向が顕著で「青い巨星」ランバ・ラル、「黒い三連星」ガイア、オルテガ、マッシュ、「真紅の稲妻」ジョニー・ライデン、「白狼」シン・マツナガなど、異名を持つエースパイロットが多数存在します。色にまつわる異名を持つエースは、搭乗するモビルスーツもその色で塗られていることがほとんどです。
しかし、モビルスーツは兵器ですから、目立つと不利になるはずです。にもかかわらず、アムロは白に塗装されたモビルスーツに乗り続けることが多く、シャアに至っては、赤い機体だけでなく、全身が金色の百式にまで搭乗します。
なぜ、こんなことをするのでしょうか。アムロのガンダムのトリコロール塗装は「試作機の塗装」で、最初はアムロ自身が望んだことではありません。しかし、その後の機体です、ゼータプラス、リック・ディジェ、vガンダムなど、白を基調にしているものが多くありますから、自分の意志で白を選んでいる可能性が高いです。
なお、色のついた機体に搭乗して戦うパイロットは、史実にも存在します。第一次世界大戦で活躍した航空機パイロット「マンフレート・フォン・リヒトホーフェン」です。彼は、乗機を鮮紅色に塗装しており、敵国からは「レッド・バロン」「赤い騎士」「赤い悪魔」などと呼ばれて恐れられました。
こうなったきっかけは、リヒトホーフェンが所属する第11戦闘機中隊で、部隊の識別色として赤を採用したことですが、機体全体を赤としたのはリヒトホーフェン自身のみで、彼の意志によるものです。リヒトホーフェンが目立ったことで、彼の部隊も認知され「リヒトホーフェン・サーカス」として恐れられるようになったようです。
『機動戦士ガンダム』も戦争ものですから、このような味方の士気に関わることは大切でしょう。そうした意味で、エースたちは「識別色」に自分の機体を塗ったのだと思われます。
また『機動戦士ガンダム』では、エースやニュータイプが高性能モビルスーツに搭乗すると、ほとんど被弾しなくなります。機体を目立つ色に塗っても、撃墜されないのであれば、むしろ目立つ塗装で存在を誇示した方が「赤い彗星だ、逃げろ!」のように、敵の士気を低下させる効果が見込めます。
アムロのガンダムを「軍用兵器とは思えない塗装」と批判する意見も一部にありますが『機動戦士ガンダム』は、ミノフスキー粒子により、有視界戦闘を強要される世界観ですし、エースが搭乗した高性能機はほとんど撃墜されませんから、白、青、赤、金色といった味方に対しても存在が目立つ色は合理的とすら言えましょう。エース機の活躍がわかりやすく、エース機に攻撃が集中する分、味方への被弾を避けられるからです。
そして、国民に対する「軍からのわかりやすいプロパガンダ」としても、エースの識別色は効果が高かったと思われます。そうしたこともあって、アムロは白い機体に、シャアは赤い機体に乗ることが、社会的にも求められたのではないでしょうか。
(安藤昌季)