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大物監督たちの若き日の「才能」に驚く 傑作平成アニメ映画10選(前編)

"セカイ系"の旗手、新海誠監督の登場

『ほしのこえ』(コミックス・ウェーブ・フィルム)
『ほしのこえ』(コミックス・ウェーブ・フィルム)

●ノスタルジーに耽る大人たちにNOを突き付けた幼稚園児『クレヨンしんちゃん モーレツ! オトナ帝国の逆襲』(2001年)

 バブルの崩壊、阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件、凶悪化する少年犯罪……暗いニュースが90年代に続き、ゼロ年代に入っても日本社会に明るい未来はなかなか見えてきません。そんななか、定番シリーズの枠を飛び出した原恵一監督の『クレヨンしんちゃん モーレツ! オトナ帝国の逆襲』が大きな話題を呼びます。

 劇場シリーズ第9作となった『オトナ帝国の逆襲』は、子どもたちに付き添った親たち大人世代が映画館で大号泣するという珍現象を起こしました。しんちゃんの両親・野原ひろし&みさえをはじめとする大人たちは「20世紀博」に行って以来、少年少女時代を過ごした高度成長時代を懐かしみ、働くことを止めてしまいます。そんな中、幼稚園児のしんちゃんは大人になることを渇望し、未来に向かってガムシャラに爆走するのです。

 原恵一監督は大の犬好きとして有名です。犬の世界は嗅覚が中心となっていることに気づき、“匂い”をモチーフにした本作のストーリーを思いついたといいます。野原ひろしが“匂い”をきっかけに本当に大事なものは何かを思い出すシーンは、何度観ても胸に迫るものがあります。

 原監督は『オトナ帝国の逆襲』を完成させた直後、「やってはいけないことをやってしまった」と感じたそうですが、それは「シンエイ動画」の社員アニメーターだった原監督が、アニメーション作家になった瞬間でもありました。

●セカイ系のはじまり、DIYアニメという事件『ほしのこえ』(2002年)

 新海誠監督のデビュー作『ほしのこえ』の公開は、まさにアニメ史に残る事件でした。それまで、商業アニメーションは経験豊富なプロのアニメーターたちが大勢集まり、作業を分担して、ようやく完成するものだと思われていたのが、新海監督はたった1人でその常識を覆してみせたからです。

 当時29歳だった新海監督は脚本・作画・演出・美術・編集、さらに声優も手掛けるというDIYぶりを発揮。開業から間もなかった下北沢の短編映画館「トリウッド」で劇場公開され、異例のロングランヒットを記録します。

 地球外生命体との宇宙戦争という縦軸があるものの、中学を卒業して離ればなれになった少年と少女とが携帯メールでやりとりする遠距離恋愛が主題として描かれており、『ほしのこえ』のヒット以降、”セカイ系”という言葉がゼロ年代に一般化します。離れて暮らす主人公たち2人のプラトニックな想い、美しい風景に流れる主人公たちの心情など、新海ワールドの基本要素が25分間の処女作の中にぎゅっと濃縮されています。

 新海監督は『雲のむこう、約束の場所』(04年)などの長編アニメを経て、『君の名は。』(16年)で国内興収250,3億円というメガヒットを記録。『君の名は。』は中国、韓国などアジア各国でも大ヒットし、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』(01年)を抜いて、世界興収3億5800万ドルという日本映画No.1を樹立します。令和時代に発表される新作『天気の子』(2019年7月公開)は、どんなセカイを見せてくれるのでしょうか。

(長野辰次)

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