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大物監督たちが描いた「夢」がここにあるーー傑作平成アニメ映画10選(後編)

監督のアイデンティティを宿した2作品

 『ジョバンニの島』(ポニーキャニオン)
『ジョバンニの島』(ポニーキャニオン)

●自己矛盾を抱えた巨匠の苦悩『風立ちぬ』(2013年)

 大きなパラドクスを抱えた巨匠、それが宮崎駿監督。『もののけ姫』(97年)や『ハウルの動く城』(04年)など平成時代を代表する大ヒット作を放った宮崎監督ですが、反戦を訴える一方でミニタリーマニアであることを隠していません。相反する情念を内包しながらも、天才的なアニメーション能力で観る者を圧倒し、何度観ても容易には咀嚼しきれない魔力が、宮崎アニメには隠されています。

 堀越二郎や堀辰雄といった実在の人物をモデルにした『風立ちぬ』は、巨匠の自己矛盾がストレートに発露された作品。美しい飛行機を設計するという夢に取り憑かれた主人公・二郎は、戦争に利用されることを承知の上でゼロ戦の開発にありったけの情熱を注ぐ。その結果、多くの若者たちの命は空に散り、また最愛の女性・菜穂子も失うことになるのでした。
 
 2011年に起きた東日本大震災後に発表された宮崎作品ということでも注目を集め、序盤で描かれる関東大震災で地面や街が波打つシーンの演出は、宮崎監督は関東大震災の体験者なのか……? と思ってしまうほどの迫力があります。
 
 本作の公開後に宮崎監督は引退を表明したものの、現在は新作『君たちはどう生きるか』の製作に取り組んでいます。二郎にとっての飛行機づくりが”呪われた夢”だったように、宮崎監督にとってのアニメーション製作も永遠の呪いなのかもしれません。

●アニメで再現された終戦直後の北方領土『ジョバンニの島』(2014年)

 人気ドラマ『北の国から』(フジテレビ系)のディレクター・杉田成道が原作・脚本を担当、押井守作品を長年支えてきた西久保瑞穂監督による珠玉作。旧ソ連軍に占領されることになった北方領土の暮らしを、日本人の少年の視点から描いた実話ベースのアニメーション。声優陣も仲代達矢、八千草薫、市村正親、仲間由紀恵、北島三郎……と超豪華です。

 1945年の春、北方四島のひとつ、色丹島で暮らす純平少年は戦時中とは思えないほどのどかな日々を送っていました。ところが、終戦後の9月になってソ連軍が島に上陸し、純平たち家族が棲む家も学校もソ連軍に接収され、生活が一変してしまいます。ソ連軍将校の娘・ターニャと純平が心を通わせるようになるエピソードや、ソ連軍に連行された父のいる樺太の収容所を訪ねるシーンが情感豊かに描かれます。

 劇場公開時にほとんど話題にならなかった作品ですが、終戦直後の北方領土の様子を知ることができる貴重な作品です。また、杉田成道が執筆した小説版『ジョバンニの島』では、島から強制退去させられた際の輸送船内の苛酷さや樺太で起きた「真岡郵便局事件」についても触れています。昭和、平成が終わっても、北方領土に「戦後」はまだ訪れていません。

(長野辰次)

【画像】『この世界の片隅に』につながる幻の作品も。平成アニメ映画の名作たち(4枚)

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