『ガンダム』ジオン兵が最期に残した「心に刺さる」言葉 「ひ、火が……。母さん!」
アニメ『機動戦士ガンダム』では多くの登場人物が戦死し、その数だけドラマがありました。時には名もなき敵兵の散り際も描かれていたため、多くの人が彼らもひとりの人間であったことを思い知らされたでしょう。今回は、そんなジオン兵たちの最期の瞬間、ひいては最期の言葉に注目します。
名もなき兵士にすら死のドラマが……
アムロを救うために戦死したリュウ・ホセイ、自分の命と引き換えに活路を開いたスレッガー・ロウなど、アニメ『機動戦士ガンダム』ではさまざまな死のドラマが存在します。しかし、それは敵の兵士も例外ではありません。たとえ名前が出ない末端の兵士であっても、死に際がきちんと描かれており、その際に放たれた最期の言葉は多くの視聴者に衝撃を与えました。
例えばアニメ第42話「宇宙要塞ア・バオア・クー」で戦死したジオン軍の学生兵はガンダムとジオングの交戦に巻き込まれて爆死してしまうのですが、爆発直前に口した台詞は「ああ……。ひ、火が……。母さん!」でした。
戦場に身を置く兵士とはいえ、彼はまだ学生。最期の最期で「母さん」と叫んでしまう姿からは、彼がまだ若者であったことを嫌と言うほど実感させられるでしょう。同場面はファンの間でも有名なシーンで、ネット上には「最期に『母さん』とか言われると胸が苦しくなる」「無念だったろうな。死にたくなかっただろうな」「敵も生きた人間なんだと思い知らされた瞬間」などの反響が寄せられていました。
ちなみに余談ですが、劇場用3部作の最終章『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』では、「マリアー!」と女性の名前を叫びながら死にゆくジオン兵の姿が確認できます。マリアがどんな間柄の人なのか定かではないものの、彼にとって大事な人であったことは間違いないはず。死に際に大切な人の名前が出てしまうのは、敵も味方も同じなのかもしれません。
またアニメ第5話「大気圏突入」では、シャア・アズナブルに助けを請いながら燃え尽きた兵士の姿もありました。コムサイに戻れないまま大気圏へ突入してしまったザクのパイロット・クラウンです。「助けてください!げ、減速できません」「シャア少佐、助けてください!」と藁にもすがる思いで助けを求めるも、もはやシャアにもどうすることもできません。最期は、大気圏の摩擦熱によって機体もろとも燃え尽きてしまいました。
一方で、軍人らしい勇ましさを見せて散っていく者も。ジオン公国軍のモビルスーツパイロット・ガイアは、部下のオルテガ、マッシュとともに「黒い三連星」の異名で呼ばれていました。しかしマッシュはアニメ第24話で戦死し、続く第25話ではオルテガも死んでしまいます。
彼らの死に報いるためガイアはひとりガンダムに立ち向かいますが、その思いも虚しく敗北。そして最期に放った言葉が「マッシュ、オルテガ。す、すまん……」でした。死を恐れるでもなく、恨み言を並べるでもなく、ただ部下へ思いを馳せるガイアはきっといい上司だったに違いありません。
名もなき一般兵でさえもきちんと死に際が描かれているからこそ、敵もひとりの人間であったと痛感させられます。それもまた、『機動戦士ガンダム』が名作と位置づけられている要因のひとつなのでしょう。
(ハララ書房)