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庵野秀明監督『シン・仮面ライダー』は優しいヒーローの物語 「暴力の行使」に悩む男

あえて爽快感をもたらさせないアクションシーン

『シン・仮面ライダー』IMAX上映ポスタービジュアル (C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会
『シン・仮面ライダー』IMAX上映ポスタービジュアル (C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

 正義のヒーローとして50年以上にわたって悪の組織と闘い続けてきた仮面ライダーですが、池松壮亮さん演じるシン・仮面ライダーは悩めるヒーローとなっています。バッタオーグに変身できる能力を身に付けた本郷猛は、驚異的なパワーにビビってしまいます。一発のパンチやキックで、「SHOCKER」の戦闘員は血を吹き出して絶命することに(PG13指定)。敵対する相手とはいえ、命を奪ったことを悔いる本郷でした。優しすぎることが彼の弱点であり、また長所にもなります。

 無駄な闘いは避けようと、本郷がルリ子を連れて逃げる場面がたびたび描かれます。物語中盤では「ハチオーグ」に対して、必殺のライダーキックを浴びせることに躊躇します。劇場パンフレットに掲載されている池松さんと浜辺さんの対談で、池松さんは「闘いたくない仮面ライダーというと語弊があるかもしれませんが、今回の仮面ライダーは自らの大きな力と、暴力を行使することに対して大きく葛藤しています」と語っています。

 変身後のアクションシーンも、池松さんと柄本さんは仮面と変身スーツを身に付けたままかなりのパートを演じています。機能性のあまりよくない変身スーツ姿でのアクションに、ずいぶん苦戦したようです。アクションを専門とするスタントマンに全部任せれば、もっとかっこいい、派手なシーンになっていたはずです。俳優がそのまま仮面ライダーを演じたことで、生々しく泥臭い格闘場面となっています。暴力描写を単純に爽快感をもたらすものにしないという、庵野監督のこだわりが伝わってきます。

 CGの使い方も含め、アクションシーンの描き方は賛否が大きく割れる部分でしょう。

再構築された石ノ森章太郎ユニバース

 浜辺美波さん演じる緑川ルリ子は変身こそしませんが、闘うヒロインとしてとても印象に残ります。物語序盤で父・緑川博士(塚本晋也)を「SHOCKER」に殺されてしまいますが、ルリ子は涙を流すことはしません。とてもクールでタフなルリ子ですが、本郷とともに闘い続けることで次第に人間味のあるキャラクターへと変わっていきます。

 正義のヒーローのしるしである赤いマフラーを、ふたりの仮面ライダーに手渡すのはヒロインの役割です。特に仮面ライダー2号こと一文字隼人の首にルリ子が赤いマフラーを巻いてあげるシーンは、ドラマチックです。物語前半は冷たさを感じさせたルリ子が、母性を感じさせるキャラクターとなっていきます。ルリ子の変心ぶりは、『シン・仮面ライダー』の大きな見どころです。

 旧仮面ライダーだけでなく、石ノ森章太郎原作の特撮ヒーローの数々を彷彿させるキャラクターたちが登場します。『仮面ライダー』のリブートというよりも、石ノ森章太郎ユニバースを庵野監督が独自に再構築した作品となっています。

 連綿と続く特撮ヒーロー番組が、日本人の道徳観や倫理観に与えた影響は計り知れないものがあります。生誕50周年記念作『シン・仮面ライダー』は、これからのヒーロー像にどんな影響を与えるのでしょうか。『シン・ゴジラ』『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2021年)、企画・脚本を担当した『シン・ウルトラマン』(2022年)を完成させた庵野監督の今後の動向とともに、気になるところです。

(長野辰次)

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