『まんが日本昔ばなし』恐ろしくて悲しいトラウマ回 「一体誰が悪いのか?」
「柄杓をくれ」がみんなのトラウマに
●「佐吉舟」1980年8月9日放送
むかしむかし、八丈島に太兵衛と佐吉という、腕の良い漁師が住んでおりました。佐吉は村一番の男前で、太兵衛は村一番の力持ち。ふたりは子供のころからの、大の仲良しでした。
そんなふたりはある時、船主の娘、ヨネのことを好きになってしまいます。ヨネもまたふたりのことを好いており、どちらかに嫁ぎたいと願っておりました。それを知った船主は稼ぎの良い方に、ヨネを嫁にやりたいと言い出します。その日から、太兵衛と佐吉は仲が良かったころが嘘のように敵対し始めました。
ある波の静かな日、太兵衛の舟は魚が全く取れず、なぜか佐吉の方の舟には魚がどんどん食いついておりました。佐吉は太兵衛に勝とうと夢中になって魚を釣りまくり、あっという間に舟は魚で満杯になってしまったのです。しかし、そのとき、大波が佐吉を襲いました。佐吉の舟は魚の重みもあって沈んでしまい、溺れかけた佐吉は太兵衛に助けを求めます。
すると、太兵衛はヨネを諦めて譲るなら、舟に乗せてやると提案するのです。しかし、佐吉は「それとこれとは話が別だ」と言い、強引に太兵衛の舟に乗り込もうとします。すると太兵衛は舟の櫂(かい)で、佐吉の頭を殴りました。佐吉の頭から血が流れても、太兵衛は殴る手を止めません。
「貴様がヨネをよこしさえすりゃあ、こんなことには……」
やがて再び舟を波が洗い、気付けば佐吉の姿は海に消えていました。恐ろしくなった太兵衛は、村へと逃げ帰り、ヨネのことも忘れて家にこもりました。行方の分からない佐吉を探す村人たちに、何か知らないかと聞かれても、太兵衛はしらばっくれます。
それから数日後、どんよりとした天気の日に太兵衛は再び海へ出ました。なぜかたくさん魚がとれるなか、そこになんと青白い姿となった佐吉が、舟に乗って姿を現します。そして、「柄杓を貸してくれ……」と繰り返しながら手を差し出した佐吉に、太兵衛は思わず柄杓を渡してしまうのです。
佐吉は柄杓で海水をすくうと、次々と太兵衛の舟へと注ぎ込みました。「もしや幽霊じゃ」と気付いた太兵衛が謝って命乞いをしても、佐吉の手は止まりません。やがて太兵衛の舟は海水でいっぱいになり、沈んでいきます。
太兵衛は佐吉に「舟に乗せてくれ」と頼みますが、佐吉はどこかへ消えてしまいました。そして、太兵衛はそれからしばらく浮いていたものの、大きな波にさらわれ、いずこともなく姿を消してしまったのです。
仲の良い友だちが、同じ女性を好きになって敵となり、ふたりとも死んでしまう結末は、当時の子供たちに大きな衝撃を与えました。特に、幽霊となって姿を現した佐吉が、淡々と海水を注ぎ込んでいくシーンは「怯えながら見ていた」「青白い幽霊の姿が怖すぎた」というように、強い印象を残しているようです。
(早川清一朗)