『仮面ライダー』の相棒「滝和也」 彼がいなければ番組は終わっていた?
改造人間でもないのにショッカーと互角に戦う男。「この人なんなん?」と思った子供はたくさんいました。ライダーとタッグを組んで活躍した男の名は「滝和也」。彼は『仮面ライダー』という番組の救世主でした。
主役が大ケガ! 運命が変わった瞬間
映画『シン・仮面ライダー』が絶賛公開中です。特撮テレビ番組『仮面ライダー』は52年前に放送を開始しましたが、長く続く「仮面ライダー」の人気を語る上で欠かせない登場人物がいます。それは「滝和也」(俳優・千葉治郎)です。今回は、滝和也が番組においてどれほど大きな功績を残したかを振り返ります。
1971年4月3日、TV『仮面ライダー』が放映スタートします。ところがその裏でスタッフは悪夢を見ていました。主人公の本郷猛/仮面ライダー(スーツアクター含む)を演じる藤岡弘(現在は藤岡弘、)が、バイク走行シーンでクラッシュし左足大腿骨を粉砕骨折、全治3~6か月の重傷を負っていたのです。このとき、ロケは9話、10話を同時進行で撮影していて、幸いにも本郷の登場シーンはほぼ撮り終えていました。
困ったのは第11話以降です。テレビ局からは番組差し替えを提案されましたが制作側はそれを断ります。仮面ライダーのシーンは代わりのスーツアクターを起用するとして、問題は本郷のシーンでした。
スタッフは窮地の策で新キャラクターを登場させ、本郷の役目を任せることにします。そこで生まれたのが「滝和也」でした。設定は、モトクロスレーサーで本郷のライバル、しかし裏の顔はFBI特命捜査員(第13話で判明)でショッカーを追っている。戦闘能力が高い……この役にジャパンアクションクラブの「千葉治郎」(兄は千葉真一)を決めました。
実はもともと本郷猛役の候補でもあったそうです。滝は戦闘員や怪人ゲバコンドルとも戦い、ひとりでショッカーの行方を探るなど、本来なら本郷が行う部分を演じました。滝を見た視聴者は「強いけど何者?」と突如現れた男を不思議に思ったでしょう。千葉は身長174cm、細身で手足が長く、動きもダイナミックでかなりテレビ映えしました。
この第11話から第1クールが終わる第13話までは、なんとしても本郷猛を存在させなければなりませんでした。そこでドラマの展開を変更し、本郷とライダーの過去映像を多用します。たとえば、バイクで走る本郷の映像のあと戦闘現場にライダー登場……という演出。仲間が「本郷から電話」と言って話したり、場所を移動して「本郷、遅いな」と言ったり、出演者のセリフに「本郷」の名前をたくさん出して、裏で一緒に動いている印象を強くしました。またライダー登場のシーンも通常より増やして補いました。
滝は第13話に再び登場します。立花藤兵衛らに溶け込み、本郷から連絡を受けて捜索に出ます。ケガを負いながらもショッカーのアジトに乗り込み、最後は怪人軍団を倒したライダーがバイクで去って行く姿を見守るのでした。
ここまでがいわゆる「旧1号編」です。滝は、たった2エピソードの出演とはいえ、姿が見えない本郷とまるでタッグを組むように動き、演出に欠かせなかった戦闘アクションを披露しました。制作側からすると滝の存在がどれだけありがたかったか……番組の存続すら救う影のヒーローだったに違いありません。