鑑賞1回では見抜けない? 『シン・仮面ライダー』に隠れた特撮オマージュたち【ネタバレあり】
複数の要素が合わさった「仮面ライダー第0号」
映画中盤で登場した、洗脳された一文字隼人との戦いで左足を負傷する本郷。その足はあらぬ方向に曲がって痛々しいものでした。これは『仮面ライダー』撮影中に本郷役だった藤岡弘、さんの撮影中のバイク事故の再現でしょう。
この事件がきっかけで藤岡さんは一時的に番組を降板、『仮面ライダー』は佐々木剛さん演じる一文字が代わって主役を務めることになりました。映画でも、この後に洗脳が解けた一文字が代わりにカマキリ・カメレオン(K.K)オーグと戦う場面となり、仮面ライダー第2号誕生の流れとなります。
ちなみにK.Kオーグのような2種合成怪人は、『仮面ライダー』では後半に出てくる敵組織ゲルショッカーの怪人でした。さらに該当する合成怪人もいません。おそらく『仮面ライダー』初期の怪人順からかまきり男とカメレオン男をチョイスしたのでしょう。
ここで出てきた「死神派」という単語ですが、おそらく『仮面ライダー』の大幹部のひとり、「死神博士」からの引用と思われます。前述のマンガでも「死神」と呼ばれるイワンという人物が出ていました。このイワンとは死神博士の本名として後に設定された「イワン・タワノビッチ」と符合します。
11体現れた「大量発生型相変異バッタオーグ」ですが、これは石森先生の萬画版「13人の仮面ライダー」に登場したショッカーライダーがモチーフでしょう。本郷と一文字を足して13人というわけです。劇場では早くて追いきれませんでしたが、おそらく第2号が救援に来た時の人数は6人にまで減っていました。こちらはTV版の6人のショッカーライダーかもしれません。
そして最後の敵となったのが緑川イチローの変身する「仮面ライダー第0号・チョウオーグ」。ここには多くの要素が組み合わさっていると考えられます。
デザインを担当した出渕裕さんによると、『仮面ライダーBLACK』に登場するライバルキャラの「シャドームーン」を意識したそうですが、蝶ということもあって石森章太郎原作の『イナズマン』とイメージが重なる部分もありました。さらにベルトの形状から『仮面ライダーV3』を思い出した人も多くいたようです。思えばイチローの家族構成はV3に変身する風見史郎と同じ父母妹でした。
他にも「仮面ライダー第0号」という発想は『仮面ライダー』のプロデューサーだった平山亨さんの書いた短編小説にも見られます。緑川博士が本郷以前に改造手術したものの、体力が持たずに死亡した人間がいたと記されていました。その行為に敬意を表して仮面ライダー0号と呼ぶべき存在という記述があります。
そして最後に本郷と一体となる一文字は、萬画版「13人の仮面ライダー」のラストシーンが原点でしょう。この時の第2号は、『仮面ライダー』の新1号を思わせる2本線となっていました。いわば藤岡さんが復帰したTV版の新シリーズをラストに持ってきたのかもしれません。
もちろんオリジナルの解釈を加えれば、劇中で何度か言っていた「辛に一本線を足すことで幸になる」を体現しているのでしょう。オマージュだけでなく、独自の解釈で物語を引き立たせる絶妙な演出だったと思います。
(加々美利治)