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Webマンガで息吹き返したヒット作『女神たちの二重奏』 当時の編集長語るその背景

出版市場の厳しい事情で、人気のマンガ連載であっても単行本化されなかった『女神たちの二重奏』が、電子書籍として配信されたことがきっかけで大ヒットしています。新たな読者層が「ヒット作」を見出すというWebマンガの可能性について、同作品を連載していた「週間漫画サンデー」元編集長に聞きました。

一度は見送られた「単行本化」 電子版のヒットで続編もスタート

『女神たちの二重奏-第II楽章-』コミック第3巻(花小路ゆみ、実業之日本社)
『女神たちの二重奏-第II楽章-』コミック第3巻(花小路ゆみ、実業之日本社)

 マンガといえば、雑誌で連載されたのち、単行本(コミックス)化されることが「当然」と考えている人も多いのではないでしょうか。好きな作品について語る際に、「雑誌派? コミックス派?」といった会話をした経験がある人もいるでしょう。

 しかし出版不況が叫ばれる昨今、実は、コミックの売り上げや雑誌のアンケートがよくなければ、コミックの続刊が出なかったり、連載が打ち切られてそのままコミックにもならなかったりする作品が少なくありません。出版社にとって、印刷代や本の在庫も、売れなければ「赤字」の原因となるからです。

 そんななか、注目を集めているのが電子書籍やWebマンガサービスの存在です。スマートフォンやタブレットで気軽にマンガが読めるようになり、雑誌ではなかなか注目されなかった作品が、電子書籍化よって脚光があたるケースも出てきています。

 その代表的作品といえるのが、『女神たちの二重奏』(花小路ゆみ、実業之日本社)です。本作は、偶然に出会った顔がそっくりなふたりの女性が、お互いの人生を交換したことにより、さまざまな事件に巻き込まれていく物語です。

 2010年に「週刊漫画サンデー」(実業之日本社、2013年に休刊)で連載されたものの、出版社の都合で単行本化は見送られました。しかし、2014年の電子書籍化にともない大ヒットし、続編である『女神たちの二重奏-第II楽章-』の制作が決定。現在3巻まで(電子のみ)発売され、人気を博しています。

「週刊漫画サンデー」元編集長で、実業之日本社・漫画出版部の森川和彦さんに話を聞きました。

「紙版コミック」換算で100万部相当の売上にも

『歌舞伎町弁護人 凛花』(松田康志、花小路ゆみ、実業之日本社)
『歌舞伎町弁護人 凛花』(松田康志、花小路ゆみ、実業之日本社)

――2010年当時、『女神たちの二重奏』が単行本化されなかった背景について教えてください。

 花小路先生は、「週刊漫画サンデー」(以降、マンサン)にて長く活躍していただいていて、アンケートの人気も常に上位だったのですが、弊社の努力が足りなかったのか単行本の成績がふるいませんでした。そのため、現在BSテレ東でドラマが放映中の『歌舞伎町弁護人 凛花』(2007年~2008年、実業之日本社のWebコミック「COMICリュエル」で毎週無料公開中)以降は単行本の刊行を見送っておりました。

――人気の先生の作品でも単行本化されないのですね。

 花小路ゆみ先生に限らず、マンサンという雑誌の読者層(40歳以上の男性。主に50代)と、書店でコミックスを買う層(30代以下)が乖離し始めたため、雑誌で人気があってもコミックスの成績が上がらない作品が増えてきた時期でした。

――電子書籍化された経緯について教えてください。

 電子書籍を読むことが普及し、弊社でも、許諾の取れたコンテンツから順次、電子書籍化していくことになりました。『女神たちの二重奏』もその一環で、特別な経緯があった訳ではありません。

――電子書籍化で人気が出たことを実感した具体的な出来事はありますか。また、人気が出た要因についてどのようにお考えですか?

 コミック配信サービス「まんが王国」を運営する株式会社ビーグリー(港区北青山)さんが、携帯広告などで宣伝してくださったのがきっかけです。露出が増えることによって、どんどん売れていったようで、「まんが王国」の2014年下半期売り上げランキングで1位になりました。

 実は、そのあたりは編集部は気づいておらず、ある日突然多額の入金があってびっくりしました(笑)

 電子書籍の場合、単純に「何万部売れた」と言うことはできないのですが、紙のコミックス(1冊約600円)に換算すると、およそ100万部に相当する売り上げがあり、その人気から続編の製作が決まりました。

――電子書籍化によってどのような影響がありましたか。

 マンサンの読者は40歳以上の男性が中心でしたが、電子書籍化によって女性がとても多くなりました。いろいろなアプリが増えてきている昨今、若い読者もとても増えていて、昨年の新入社員にも「『女神たちの二重奏』を読んでいました」と言われました。

――最後に、マンガ作品の電子書籍化について、マンガ編集者として思うことや期待などがあれば教えてください。

 紙のマンガで育ってきたので、正直なところ「紙で読んでほしい」という気持ちもありますが、もう電子の売り上げなしではビジネスが成り立たなくなっています。はじめから電子向けに特化した作品づくりも並行していく必要があると感じています。

 電子版のおかげで、埋もれつつあった過去の作品にもスポットが当たるようになってきたのもありがたいですね。以前マンサンで長期連載していた『監察医 朝顔』が2019年7月期のフジテレビの月9でドラマ化されることになったのも、電子で読まれたことがきっかけだったかもしれません。

そして、マンサンの顔であった『静かなるドン』の電子書籍も依然として絶好調です。当時、苦労して作ったものが財産となって、いまだに利益をもたらしてくれています。
 
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 紙の本と電子書籍にはそれぞれの魅力や利便性がありますが、電子書籍の普及によって、作品のファン層に広がりが出ていることは間違いありません。今後も、電子化によって「見出される」作品が現れることが期待されます。

(マグミクス編集部)

【画像】多くの女性読者の心とらえた『女神たちの二重奏-第II楽章-』を見る(6枚)

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