初代ガンダムの「名ドラマ」を支えた脚本家 SFストーリーだからこそ重要な要素とは
リアルと評価される『機動戦士ガンダム』のキャラクターたち。暖かな情感のドラマを与えた脚本家の存在とは。
ファーストガンダムを支えた脚本家とは
『機動戦士ガンダム』ファンの皆さま。あなたは『ガンダム』のどんなところがお好きなのでしょう?
モビルスーツがカッコいいから?
戦争をリアルに描いているから?
シャアとアムロのモビルスーツ戦がいいから?
キャラクターの絵が好きだから?
ドラマがおもしろいから?
お気に入りの声優が出ているから?
富野監督の作品が好きだから?
きっと人それぞれ、色々な理由があることと思います。そんな理由のなかには「物語」そのものに惹かれたという方も多いことでしょう。
たとえば、久しぶりに避難所で再会したアムロの成長を理解できない母との悲しい別れ、初めて淡い恋心を抱いた大人の女性マチルダさん、戦場の部下たちにも信頼されているランバ・ラルとハモンのカップル、幼い兄弟たちを養うため、ジオンのスパイとしてホワイトベースに乗り込んだミハルの悲劇……
TVシリーズの「ガンダムという物語」には、常にこうした人と人との心の触れ合いを意識しながらシリーズをまとめていた脚本家がいたことをご紹介したいと思います。『ガンダム』のシリーズ構成とチーフライターを務めた星山博之さんです。
第一話を筆頭とし、物語全体の流れの中で要所要所の話数を担当している星山さんは、企画書段階から『ガンダム』を作り上げたメインメンバーのひとりで、会社側から要求される商業アニメの制約と、富野監督の思い描く「ガンダム」という世界を融合させて、ひとつの物語として成立させる役割を担った方です。
TVアニメには、時代や会社によってさまざまな作り方がありますが、当時の「日本サンライズ」は、スポンサーや代理店などとの調整を念頭に、会社側から企画案が出され、それらに沿って担当予定の監督と脚本家が全体のストーリーやその流れを作ってゆく、というのが大まかな流れでした。
星山さんは旧・虫プロでアニメーションの脚本の世界に入り、『ガンダム』の二作前になる『無敵超人ザンボット3』で脚本家としてサンライズ作品に初参加します。次の『無敵綱人ダイターン3』では複数人いる脚本家の一翼を担い、『ガンダム』の以降は、後番組となる『無敵ロボ トライダーG7』『最強ロボ ダイオージャ』、また高橋良輔監督の『太陽の牙 ダグラム』、神田武幸監督の『銀河漂流バイファム』等、サンライズのオリジナル路線でシリーズ構成・チーフライターを次々とつとめます。
「リアルメカ」や「SF」というと、一見理屈っぽい難しい物語を想像しがちですが、物語を紡いで行くのは登場人物たちのドラマです。
アムロがマチルダさんに憧れ、ガルマの婚約者イセリナは敵討ちを望み、シャアとララァは上官と部下以上の関係にあり、理知的な科学者だったアムロの父も、戦争の中で酸素欠乏症による脳障害という悲しい姿に……と、実は『ガンダム』のなかには、その世界に生きている人々の「ナマ」の姿が描かれていました(劇場版ではカットされているエピソードも含みます)。
「人の想いなくしてドラマは生まれない」それを常に描いていたのが星山さんなのです。その代表が、あのミハルとカイの哀しいドラマです。
星山さんは「シリーズ構成ってさ、他人の脚本とのバランスとりばっかりしてて、自分の好きなように書く機会がないんだよね」みたいなことをよくおっしゃっていましたが、『ガンダム』の中で一番好きなのはカイだそうで、その気持ちが反映されていたのが、あのミハルとの物語でしょう。