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『サザエさん』の「お隣さん」は2代目? 消された初代・伊佐坂家の謎

初代伊佐坂家はクセ強?

伊佐坂家はもともと『似たもの一家』の主人公だった。『サザエさんうちあけ話/似たもの一家』(朝日文庫)
伊佐坂家はもともと『似たもの一家』の主人公だった。『サザエさんうちあけ話/似たもの一家』(朝日文庫)

 浮絵さんが久しぶりに登場したのは、71年10月24日放送の「としごろ民宿」。大学生として再登場した浮絵さんは、ポニーテールにジーンズ姿で肩にジャンパーをかけて「オーッス」と挨拶するなど、けっこうヤンチャな印象でした(初登場時も甚六を大声で「アニキ!」と呼ぶなどヤンチャな小学生でした)。

 さばけた性格の分、サザエたちには進んでいると思われていたようで、姿が見えなくなったら「駆け落ちしたんじゃないか」と疑われ、男友達のプロポーズの練習台になったら「学生結婚をするのでは」などと勘違いされてしまいました。伊佐坂先生とバーと居酒屋をハシゴして酔い潰れてしまったこともあります(今ならこのような描写は難しいでしょう)。カツオやワカメにとっては、「憧れのお姉さん」というより「翔んでるお姉さん」だったと思います。

 甚六さんも久しぶりに登場したときは浪人生になっていました。メガネはかけていませんが、ニキビ面は二代目と一緒。カツオたちと一緒に遊ぶことはなく、声も低めの落ち着いたお兄さんでした。

 その後、見事に大学合格しますが、大学生になっても浪人生の頃の勉強癖が抜けず、キャンパスライフをエンジョイしている姿は描かれませんでした。それにしても、妹の浮絵さんが大学生になっているのに、兄の甚六さんはまだ浪人生だったなんて……。甚六さんの心労がしのばれます。

 ペットも今とは違います。トムという名の犬で、お軽さんが「人間並みですわね」とさりげなく誇るほど賢い犬でした。お使いをこなすのは当たり前、留守番を任されたらクーラーの効いた部屋で休むことも。

 こうして振り返ってみると、かなり個性の強い一家だったことがわかります。それゆえストーリーに絡ませにくかったのか、庶民的だったお軽さんだけは何でもない場面で「お隣の奥さん」として顔を見せていましたが、伊佐坂先生、浮絵さん、甚六さん、トムは普段のエピソードにはあまり登場しませんでした。

 磯野家の隣人として仲良く過ごしていた伊佐坂家ですが、78年5月7日放送の「突然のお隣さん」で浜さん一家が引っ越してきたことによって姿を消してしまいます。お別れの様子などは描かれていません。どのような事情があったかはわかりませんが、個性の強い伊佐坂家が、日常的なホームドラマを志向していた『サザエさん』の世界にマッチしないと判断されたのかもしれません。

 85年に浜さん一家が引っ越して、磯野家の隣に二代目の伊佐坂家が引っ越してくると、まるで上書きされるかのように初代伊佐坂家の存在もなかったことにされてしまいました。『サザエさん』の特番に登場することもありません。

 とはいえ、『サザエさん』公式サイトに「初代の伊佐坂先生」という記述があるように、まったくの黒歴史というわけではないようです。配信されている過去の『サザエさん』では往時の伊佐坂家の活躍ぶりを見ることができるので、機会があったらぜひご覧になって懐かしんでみてください。

(大山くまお)

【画像】さまざまな事情で「消えた」キャラクターを見る(4枚)

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