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2020年新作に挑む押井守監督が、『うる星やつら』で遊び倒した「入れ子構造」の妙【ポップカルチャーの道標】

「終わりのない世界」に込められた哲学的深遠さ

CS映画専門チャンネル「ムービープラス」2019年2月4日放送の番組「この映画が観たい」に出演した押井守監督(画像:ムービープラス)
CS映画専門チャンネル「ムービープラス」2019年2月4日放送の番組「この映画が観たい」に出演した押井守監督(画像:ムービープラス)

『ビューティフル・ドリーマー』と同じ1984年に公開された薬師丸ひろ子主演映画『Wの悲劇』もドラマの中でもうひとつのドラマが展開される多重構造の作品でしたが、押井守作品の面白さは、その多重構造性を徹底的に遊び倒してみせたことです。まるでロシアの民芸品マトリョーシカ人形のように、どこまでもどこまでも夢の世界が続き、観ているこちらまで陶酔感を覚えるほどです。

 テレビシリーズと並行して劇場版もつくるという『うる星やつら』製作現場の友引高校さながらのドタバタ騒ぎの中で、歴史的傑作『ビューティフル・ドリーマー』は誕生します。

 OVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)第1弾『ダロス』(1983年〜85年)の企画も抱え、時間に追われていた押井監督は、脚本を書かずに自身の脳内にあったイメージをそのままに絵コンテから描き始めたそうです。どこまでが現実で、どこからが夢なのかーー『ビューティフル・ドリーマー』はSFコメディでありながら、古代中国の思想家・荘子が遺した説話「胡蝶の夢」を彷彿させる深遠さが漂う、青春映画として完成したのでした。

 押井監督はその後、士郎正宗原作コミックの劇場アニメ版『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(95年)では電脳世界、すべてポーランドで撮影された実写映画『アヴァロン』(01年)ではバーチャルゲームの世界を題材にし、『マトリックス』(99年)のウォシャウスキー姉妹や『アバター』(09年)のジェームズ・キャメロン監督ら海外のクリエイターたちに多大な影響を与えることになります。

 現実世界とは異なる非現実世界をモチーフにすることで作家性を確立した押井監督ですが、本人によると、それらの作品で描かれた非現実世界は本当の意味での理想郷(ユートピア)ではないそうです。この世ではない、別の世界……、つまりはあの世、死の世界を意味していたのです。いつまでも若いままの終わりのない世界は、リアルに生きているとはいえない世界だったのです。

 押井監督が『ビューティフル・ドリーマー』を完成させたのは32歳のとき。この作品を最後に「スタジオぴえろ」から独立し、険しいフリーランサーの道を選びます。押井監督が自身の青春時代との訣別を決意して撮り上げたのが、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』だったのかもしれません。

(長野辰次)

【画像】「うる星」「攻殻」から2020年の新作まで…押井守監督の軌跡

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