『町田くんの世界』が見せる「王子様」像 読み手の世界も変えるその魅力
2018年4月に完結したマンガ『町田くんの世界』(安藤ゆき/集英社)の実写映画が、2019年6月7日(金)から公開されています。不器用で地味な男子高校生・町田くんの得意なことは「人を好きになること」。天然の「人たらし」である町田くんと周囲の人びとのあたたかな物語は、本のこちら側、読み手の世界も変えてくれるような新風を巻き起こすマンガなのです。
勉強も運動もイマイチな地味男子、でも愛おしい主人公
2019年6月7日(金)より、マンガ原作の実写映画『町田くんの世界』が公開され、「ぴあ初日満足度ランキング」2位を獲得し注目を集めています。『町田くんの世界』(安藤ゆき/集英社)は、男子高校生・町田一と周囲の人びとの日常を描いたマンガ作品です。
物静かなメガネ男子である町田くんは、その外見とは裏腹に成績は中の下。スポーツは外見どおりに得意ではありません。機械が苦手なので、持っているのはスマホではなくガラケー。要領も悪く不器用で、できる料理も卵を茹でるか焼くのみ。
しかし興味深いことに、彼は老若男女関係なく周囲の人びとの心をつかみ、家族はもちろんクラスメイトからも教師からも、近所のおじいさんにだって愛されています。
町田くんが唯一自信を持っていること。それは人を好きになることです。道行く見知らぬ他人でも、家族と同じように手を差し伸べ、相手を尊重できる。彼の内にある博愛は、静かにまわりの人の心に入り込み、日常を変えていきます。
彼の行為は些細でいて、された本人にとっては大きく響いてくる優しさです。おばあさんをおぶって横断歩道を歩き、指を切った女の子にサッと絆創膏を差し出す。間違って男子から受け取ったラブレターも、茶化すことなく真剣に悩んだ上で丁重な返答をします。
胸躍る冒険も、剣がぶつかり合う激しいバトルも、この世界にはありません。町田くんは学園の人気者でも、女子にモテモテなイケメンでもない。それでも、世界を変えることができる「新たな王子様」がここに描かれているのです。
では、町田くんの優しさは彼の内から無限に湧き出るものなのでしょうか。その答えは物語の中にきっちりと描かれています。幼き日、妹の世話で忙しい母親にかまってもらえず寂しい気持ちになっていると抱きしめてくれた叔母。みんなを家族と思って接することを教えてくれた幼稚園の先生。町田くんがこれまでの人生で受けてきた教えや優しさを、成長した町田くんが誰かにそっと差し出しているのです。
誰かから受け取った形なきものを、違う誰かに渡す……。当たり前のようでいてとても難しいことを自然にこなす町田くんは、とてもかっこよくて愛おしい少年です。