『町田くんの世界』が見せる「王子様」像 読み手の世界も変えるその魅力
博愛から偏愛へ。変化する町田くんの世界
『町田くんの世界』は、町田くんを通して見た、町田くんが生きる世界のことであり、町田くんの内なる世界のことでもあります。ふたつの世界がどのように変わっていくのかを見つめる物語なのです。
天然「人たらし」である彼が異性から好意を寄せられるのは、町田くんのお母さんの発言からも、小さい頃からよくあったことのようです。当の本人は恋愛面に関しては相当に鈍く、女の子からのアプローチにも全く気づきません。どんな美人でも、あざとい女の子でも、町田くんが家族のようにとらえてしまうのも要因のひとつでしょう。
でも、そこに特別や例外が生まれたら? みんなを平等に好きでいたのに、独占してしまいたい人、飛び抜けて好きな人ができたら? これまでとは違う自分の心に気づいてしまった時、町田くんはどんな行動に出るのか。町田くんの内なる世界の、静かな変革がやってきます。
彼がどんな風に自分の気持ちを知り、行動していくか。最終巻である第7巻の、物語の幸せなたたみかけ方は圧巻です。初めての偏愛、初めての恋を知る物語。最後の最後まで、優しさとときめきにあふれて愛おしさが止まらなくなります。
町田くんのような存在は理想的ではあるものの、容易に実践できるものではないと思う人がきっとほとんどでしょう。現実には難しいよね、こんな人いるわけないよね──でも、こんな人がいたらいいな、こうなれたらいいな。今度誰かが困っていたら少しだけ何かやってみようかな……。
そう思った人もまた、町田くんの不思議な力にすでにつき動かされ、愛と優しさの循環の世界にいるのかもしれません。
(川俣綾加)