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『ボトムズ』主役メカ・スコープドッグの「回転式3連レンズ」に隠されたデザイン秘話

『装甲騎兵ボトムズ』の主役メカ・スコープドッグは、頭部の「回転式3連レンズ」が特徴的です。実はここに、こだわりのデザイン秘話がありました。

デザインのポイントは「15度」?

「装甲騎兵ボトムズ スコープドッグ ターボカスタム ST版 色分け済みプラモデル」(ウェーブ)
「装甲騎兵ボトムズ スコープドッグ ターボカスタム ST版 色分け済みプラモデル」(ウェーブ)

『装甲騎兵ボトムズ』は1983年に放映された日本サンライズ(当時)のロボットアニメです。SF色豊かな舞台設定や、ハードでミリタリー感漂うメカのデザイン、説得力のある緻密な構造設定など、特にメカニカルな世界がお好きな方々の間で、今も愛好の士が多いTVアニメーション作品です。

 特に、このタイトルに惹かれてここを見て下さった方々の多くは、きっと『ボトムズ』のメカ系にお詳しいことと思います。

『ボトムズ』はこの広大な宇宙のなかにある「アストラギウス」という銀河で長期間続いている戦争を舞台背景とした物語です。この物語の中心となるのが、キリコという名の青年。彼はこの世界で使われ続けている人型兵器の「AT(アーマードトルーパー)」の中の「スコープドッグ」と呼ばれるATの基本タイプを乗り継ぎ死線をくぐり抜けて行きます。

 ちなみに「ボトムズ」というのは、この世界に登場するATたちを指す「スラング(蔑称)」です。ATには、たとえば与圧システムや防弾性のような人間の生命維持に必要な装備がなされていません。乗り手の命など無視のひどい戦闘兵器。つまり「最下層(bottom)の兵器=ボトムズ」。そのひどいマシンに身を託し、戦いに明け暮れねばならない「大事にされない者」を「ボトムズ乗り(最低野郎)」と、この世界では呼ぶのです。

『ボトムズ』の制作を行っていたのは、実は『機動戦士ガンダム』(初代)を作っていたのと同じ場所(スタジオ)でした。『ボトムズ』の制作当時、同じビルの1階が第1スタジオのボトムズ班、2階が『聖戦士ダンバイン』制作班の第2スタジオでした。

 そんな位置関係ですので、当時『ダンバイン』を担当していた自分は制作には関わってはいませんが、日々ボトムズ班のスタッフとも顔を合わせ、企画部所属同士の仲間とも会話しますので「面白そうなことやってるなぁ」という印象でした。

 そんな元同僚から教わった未発表情報。それが「スコープドッグのレンズは、実はちょっとだけ傾いているのが正式」です。ATファンを自称するあなたも、これに気づいておいでですよね?

 ファンの方はご存じの通り、ATのデザインはガンダムなどもデザインされた大河原邦男さんで、このデザイン画はムック等でも度々掲載されていることも勿論ご存じかと思います。

 スコープドッグのデザインができあがった当初(まだ実制作に入る前段階)、頭部前面についている三つのレンズは、正面から見て正三角形に配置されていました。ところがある日、その三角形が少しだけ傾いたデザイン画が上がってきたそうなのです。しかし、その傾いた形がめっぽうカッコいい!

 そこで、この傾いた方でいこうと、それまでに出来上がっていた設定画も全て、もう一度大河原さんに描き直していただき、傾いたものが正式なスコープドッグの「顔」になったのです。

 傾き角は15度程度。この角度は案外重要で、傾き過ぎて30度まで行くと横倒しの正三角形配置になり安定してしまうので、ちょっとだけ面白さが減ってしまうということなのだそうです。

 一方、この傾き角に気がつかない人もいて、特に立体などにするおり、この角度を意識しているかしていないかが、スコープドッグの顔の印象を変えてしまいます。そのために基本の設定画は判りやすく絵の描きやすい30度に統一され、設定の担当者が監修したTVシリーズ当時の公式商品も、30度程度の傾きになっています。

 ただ、この傾きに気づかれにくいのにはひとつ理由もあるそうです。サンライズのロボットアニメでは、ロボットを作画するとき、どのようにポーズをつけたりアクションさせたりすればいいかの見本用に、作画監督などの手による「ポーズ集」のようなものが作られます。

『ボトムズ』の場合は、あくまで動きなどを解説するための図として、キャラクターデザイナーであり作画監督の、故・塩山紀生さんが描いていますが、その図のスコープドッグのレンズ位置が正三角形のままなのです。当時、塩山さんは、描き直そうかと仰ったそうですが「これは解説図だから」ということで、山のように待ち受ける次の作業に入っていただいたそうです。

 この三つのレンズは三つをまとめて設置した構造で、回転する角度は120度と決まっています。たとえ、何かのシーンで設定画とレンズの位置が変わっていたとしても、それは必ず左右どちらかに120度です。ただ、全て手描きだったTVシリーズ当時の画面では、定規で測ったようにきっちりとした角度が守られているわけではないこと、どうかご了承下さい。

 いずれにしても、基本の設定画に忠実であろうとするのであれば、レンズは正三角形から30度。初期スタッフの想いを知りたければあえて15度くらいだけ傾けてみる。これが「通ファン」なのかもしれませんね。

 余談ですが、『ボトムズ』第1話の本放送時、2階のダンバイン班にいた富野監督(機動戦士ガンダムの監督)も1階に降り、スタッフの後ろからこっそりTVを見ていたようなのですが、終わったあと室外にでると、なんだかちょっと悔しそうな風情で2階に戻っていった姿を目撃したスタッフがいたと聞いています。

 これはあくまで富野監督の人となりを知る私個人の想像ですが、きっと「うわー、こう来たか!  やりたかったこと、先にやられちゃったよ」みたいな気持ちだったのじゃないでしょうか。ともあれ富野監督も『ボトムズ』が内包する作品パワーを、1話を観ただけで敏感に感じ取ったのでしょう。

 なお、サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の各制作スタジオは別の場所に移っていますが、この『ボトムズ』や『ガンダム』を制作していた建物は、サンライズの歴史を抱いた場所として、今も変わらず現存しています。

【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。

※本文の一部を修正しました。(2023.5.23 19:20)

(風間洋(河原よしえ))

【画像】15度の傾きある? スコープドッグの頭部デザインを見る(4枚)

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