【早く人間になりたい】社会派アニメ『BEM』は、重いテーマをスタイリッシュに描く
1968年に放送開始された伝説的アニメ『妖怪人間ベム』50周年を記念し制作されたアニメ『BEM』の放送が始まりました。当時から変わらない問題提起を軸に、現代においても古臭さを感じさせない作品になっています。第1話の内容から、その楽しみどころを紹介します。
定番セリフ「早く人間になりたーい!」に込められた哲学

2019年7月14日からテレビ東京で放送開始した『BEM』は、1968年のTVアニメ『妖怪人間ベム』のテーマを現代風に解釈し、再び視聴者に問題提起する作品です。
『妖怪人間ベム』は、いつどこで誰が生み出したのかわからない、人でも動物でもない異形の怪物である「ベム」「ベラ」「ベロ」が、人びとを助け、友情を育み、時に人びとから迫害されながら、いつか人間になれる日を夢見て、悪と戦いながら旅をしていくという物語です。
作中の「早く人間になりたーい!」というセリフはあまりに有名で、同作品の代名詞といってもよいでしょう。気味悪い主人公たちの姿、ホラーテイストの強いストーリーに加え、扱うテーマも「正義」とは何か? 「人間らしさ」とは? といった非常に哲学的なものから、差別や偏見といった社会的なものまで、重い問題を扱っていました。
新作『BEM』の舞台はリブラシティという都市。街は一見すると経済が発展し、文化的に見えますが、別の区画に入ると、犯罪者があふれ、警察も犯罪組織から賄賂をもらっているという状況です。
汚職がはびこるなか、女性捜査官のソニア(CV:内田真礼)だけは、正しくあろうとしている姿が描かれています。ソニアは連続溺死事件を追う最中、ベム(CV:小西克幸)に助けられます。その場面でジャズが流れます。1968年版アニメのOPテーマのような「おれたちゃ妖怪人間なのさ」という節回しからすると、ずっとスタイリッシュ演出になっています。
またベロ(CV:小野賢章)はベラ(CV:M・A・O)のことを「人間に夢見すぎ」と言い、逆にベラはベロに「人間に闇見過ぎ」と言います。このやりとりも、コミカルであると同時にスタイリッシュです。ベムは旧作に比べスマートになっていますし、ベラも可愛らしく描かれています。ベロも常にヘッドホンを離さないシニカルな少年になっています。
第1話の最後のシーンで、異形の姿に変身したベムに助けられたソニアは、なんとベムに発砲します。それも何発もです。この描写は、助けた人に石を投げられ迫害される、かつての『妖怪人間ベム』を思い出させます。
『BEM』は、見た目が醜いもの、自分たちとは違う存在、理解できないことなどを差別してしまう人間の愚かさを、観る者に突きつけてきます。同作品は一見、現代向けにさまざまなアレンジが施されていますが、一貫して『妖怪人間ベム』のテーマを踏襲し、さらにそこに現代の視点を付け加えている意欲作なのです。
その哲学は、ソニアのように正しくあろうとする人間でも、「異質な存在を冷静に理解しようとするのは難しい」という、厳しい描写に表れているのです。
(二木知宏)
※TVアニメ『BEM』第2話は、7月22日(月)午前2:03 から放送予定。Netflix、Amazonプライム・ビデオ、Huluなどでも配信されます。