『千と千尋』のカオナシと千尋には、身近な問題解決の「ヒント」が
宮崎駿監督の代表作『千と千尋の神隠し』、『崖の上のポニョ』、『天空の城ラピュタ』が2019年8月16日から3週連続でテレビ放映されます。なかでも『千と千尋』の、善と悪とに二分することができない世界観は、現代社会を示唆したかのような内容となっています。同作のキーパーソンである「カオナシ」の存在について解説します。
どこにも居場所のない、寂しい"カオナシ"
宮崎駿監督の人気アニメ『千と千尋の神隠し』(2001年)が、2019年8月16日(金)19:56から日本テレビ系「金曜ロードSHOW!」で放送されます。世界興収こそ、新海誠監督の『君の名は。』(2016年)に抜かれましたが、国内興収308億円の記録はいまだに破られていません。ベルリン国際映画祭金熊賞、米国のアカデミー賞長編アニメ賞を受賞するなど、宮崎監督&スタジオジブリの底力を感じさせるファンタジー大作です。
八百万(やおろず)の神たちが暮らす異界に迷い込んだ10歳の少女・千尋(声:柊瑠美)が、魔女の湯婆婆(声:夏木マリ)が営む湯屋「油屋」で働き、たくましく成長していく物語です。トトロを思わせる「おしらさま」、ひどい悪臭を放つ「オクサレさま」など、ユニークな神さまたちが続々と登場するアニメーションならではの楽しさがあふれています。
異形のキャラクターたちの中でも、より強く印象に残るのが「カオナシ」です。すでにストーリーは多くの人が知っている『千と千尋』ですが、ミステリアスなカオナシのことが気になって、繰り返し観てしまうのかもしれません。
カオナシとは一体、何者なのでしょうか? お面を付けた黒い影のような存在で、「あっ、あっ」や「えっ」としか話すことができません。賑やかな「油屋」の周辺をうろうろしていますが、自分の意思では「油屋」に入ることもできません。異界に来て日が浅く、何も知らない千尋から「そこ濡れませんか。ここ開けておきますね」と優しい言葉を掛けられたことから、千尋を慕って、執拗に付きまとうようになります。
カオナシは表情が乏しく、普段は大人しいのですが、「油屋」で働く従業員たちが砂金好きなことを知ると、指先から大量の砂金を出し、「油屋」で大豪遊を始めます。自分の言葉を持たないため、青蛙(声:我修院達也)を呑み込んで、彼の声でしゃべり始めます。欲望に身を任せて巨大化したカオナシは、千尋にも砂金を与えようとしますが、千尋が受け取らないと分かると、ブチ切れて大暴れするのでした。
他者とのコミュニケーションが苦手、本能の赴くままに生きている、すべてお金で解決できると思っている、自分を持たずに周囲の思惑に流されてしまう、思いどおりにならないとすぐキレてしまう……。宮崎監督が生み出したカオナシは、劇場公開当時(2001年7月)の若者たちの内面を象徴的に描いたキャラクターだったといわれています。