ヒーローのいない特撮ドラマ『怪奇大作戦』 実相寺監督の演出が冴えた「京都買います」
「ギャーッ」という男性の叫び声が耳に残るのが、『怪奇大作戦』のエンディング曲「恐怖の街」です。同じ円谷プロ制作の『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』と違い、変身ヒーローが登場しない、大人向けの特撮ドラマでした。実相寺昭雄監督をはじめとする一流スタッフが手掛けた珠玉のエピソードの数々は、いま見直してもインパクト大です。
『ウルトラセブン』の後番組としてスタート
特撮ドラマの金字塔とされる『ウルトラセブン』の放送55周年を記念した上映会やイベントの数々が開かれ、グッズも発売されるなど、特撮ファンを楽しませています。円谷プロ制作の『ウルトラセブン』は1967年10月よりTBS系で全国放映され、1968年9月8日に感動的な最終回を迎えました。
同じ日曜日の夜7時、翌週となる1968年9月15日から新番組としてスタートしたのが『怪奇大作戦』でした。こちらも円谷プロ制作の特撮ドラマですが、『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』と違って、怪獣や宇宙人は出てきません。社会をおびやかす怪事件の数々に、SRI(科学捜査研究所)のメンバーが立ち向かうという大人向けの内容となっていました。
おどろおどろしいテーマ曲と不気味な映像がトラウマ的に記憶に残っている人も多いのではないでしょうか。怖かったけれど、忘れられない『怪奇大作戦』の魅力を振り返ります。
人間の心の闇を描いた本格的ミステリー
それまでの『ウルトラマン』『ウルトラセブン』といった変身ヒーローものに親しんでいた子供たちにとって、『怪奇大作戦』はかなり刺激が強い番組でした。街で怪獣や宇宙人が暴れ回っても、最後はウルトラマンやウルトラセブンが必殺技を使って退治してくれるという安心感が、『怪奇大作戦』にはなかったのです。
怪事件や怪奇現象の真相をSRIのメンバーは科学的に解明するのですが、真相が明かされた後も事件を引き起こした犯罪者たちの心の闇が印象に残り、番組を見終わった後もすっきりしないエピソードが多かったように思います。視聴率は平均22%を記録した『怪奇大作戦』ですが、2クール全26話で終わってしまいます。
円谷プロのスタッフにとっては、変身ヒーローが怪獣たちをやっつけるという予定調和的なストーリーを脱して、新しいステージを目指した意欲作でした。ウルトラマンやウルトラセブンといった「デウス・エクス・マキナ」(絶対的な力を持つ存在)に頼ることのない、あくまでも人間を主体にした本格的なミステリードラマだったと言えるでしょう。
飯島敏宏監督、上原正三脚本による第1話「壁ぬけ男」は、東宝の「変身人間シリーズ」としてヒットした恐怖映画『美女と液体人間』(1958年)、『電送人間』『ガス人間第1号』(ともに1960年)の世界を25分間に凝縮したような濃厚な内容です。
SRIの中心メンバーとなっていたのは、岸田森さんが演じる牧史郎でした。その後も、『帰ってきたウルトラマン』(TBS系)や『太陽戦隊サンバルカン』(テレビ朝日系)などの特撮ドラマで活躍した岸田森さんですが、ニヒルな牧史郎は最高のハマり役でした。
迷宮入りしそうな難事件を科学的に解き明かしていく牧ですが、人間の暗部に魅了されてしまった異界人のような雰囲気をどこか漂わせていました。『ウルトラマン』のムラマツ隊長役でおなじみだった小林昭二さんも、SRIに協力を求める警視庁の町田警部役でレギュラー出演していました。