『崖の上のポニョ』物語の「破綻」すら魅力に変える、宮崎監督の凄み
国民的アニメーション作家、宮崎駿監督の人気作『崖の上のポニョ』が2年ぶりにテレビ放映されます。アンデルセン童話「人魚姫」をモチーフに、宮崎監督のこだわりとイマジネーションが爆発した作品で、そこには物語のフォーマットにとらわれない、近年の宮崎アニメの凄みを感じ取ることができます。
物語の「枠」に収まらない奔放さ

「ポーニョ、ポーニョ、ポニョ、さかなの子♪」の主題歌でもおなじみ、宮崎駿監督のオリジナルアニメ『崖の上のポニョ』(2008年)が2019年8月23日(金)21:00から「金曜ロードSHOW!」(日本テレビ系)でオンエアされます。人間の男の子・宗介と魚の女の子・ポニョとの「異類婚姻譚」であり、手描きアニメーションの面白さが存分に楽しめる作品です。
空き瓶に頭を突っ込んでしまい、抜けなくなった魚のポニョ(声:奈良柚莉愛)を、5歳の男の子・宗介(声:土井洋輝)が助けたことから、この不思議な物語は始まります。ポニョの身を案じたポニョの父親・フジモト(声:所ジョージ)によって一度は海底の家へ連れ戻されるポニョですが、生命の水を浴びたポニョは人間の女の子の姿となり、再び宗介に逢おうとします。
ここから先は、「人魚姫」や「鶴女房」といったおとぎ話の定番ストーリーを離れ、ぶっ飛んだ展開となっていくのです。
荒れ狂う大波の上を女の子の姿になったポニョが駆けながら、宗介が乗る自動車に迫るシーンは、一途な恋に陥った女性の狂気に近いものを感じさせます。宗介は子どもの直感で、女の子はあのポニョだと気づき、受け入れるのです。嵐の夜、宗介の家でポニョは幸せな時間を過ごしますが、ポニョは疲れると半魚人のような姿になるなど、かなり奇妙なシーンが続くことになります。
海の女神・グランマンマーレ(声:天海祐希)の娘であるポニョが人間の世界へやってきたことで、大自然の摂理は崩れ、宗介たち人間が暮らす世界は水没してしまいます。言ってみれば、文明社会の終焉です。それでも宗介とポニョは明るくその状況を受け入れ、2人の間にある見えないつながりを決して棄てようとはしません。
物語的には起承転結のフォーマットに収まらない、かなりバランスの悪いものとなっています。それでも『ポニョ』には、観客を惹き付ける魅力があるのです。それは、物語の枠組みさえも凌駕してしまう、天才アニメーター・宮崎駿監督ならではの奔放さと力強さに他なりません。