アニメの「SF考証」って何する人? 『ガンダム』にミノフスキー粒子という設定を与えた功績
『機動戦士ガンダム』などロボットアニメ作品において、架空の世界観に説得力を持たせてくれるのが「SF考証」や「SF設定」と呼ばれる専門スタッフの存在です。
「SF考証」は何をしている?
1970年代から『機動戦士ガンダム』を代表として、ロボットを題材にしたTVアニメーションで人気を得てきたサンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の作品群。その人気を常に下支えしてきたもののひとつに、綿密に作り上げられた物語の舞台背景や、その成り立ち、登場するロボットをはじめとするメカなどの存在があります。
初代『ガンダム』からすでに40年を経た現代、しばらく前に話題となった「Pepper」(ソフトバンクロボティクス)や「ASIMO」(本田技研工業)、犬型ペットロボット「AIBO」(ソニー)、多くの家庭で使われている掃除用のロボットなど、ロボットはすでに一般生活にもなじみあるものになっています。
しかし、アニメに登場するような人型で巨大なロボットは、未だに実現には至っていません。足や腕が動く横浜の「動くガンダム」も、実際は固定された重機の発展系のようなものなので、物語に登場する、巨大でありながら人間同様に動くようなロボットの実現はまだまだ先のようです(それにはさまざまな「法律」や「規制」なども関わっているので、テクノロジーとはまた違った問題も絡みます)。
いずれにしろ、放送当時でも、画面同様のガンダムを実在させるのが難しいことはわかっていました。それでも、作品の性格上、それまで「フィクションだから」でスルーできた人型の巨大ロボットに、どうやったら現実味を持たせることができるのか、ということを作り手はこれまで以上に考えねばなりません。
そこで重要なのが、物語の舞台や文化水準、価値観、国家体制などの「設定」です。特にメカには「SF設定」という専門知識を加味したものが必要でした。たとえば、
・ガンダムを動かす動力は?
・ 広い宇宙空間で、どうして斬り合いや目視の撃ち合いが必要?
・宇宙空間で人類が暮らすとしたら?
こうした点を作品内で理解してもらえれば、物語の中のロボットもドラマも、臨場感をもって受け取ってくれるはずです。しかし、それにはロボットの構造や、宇宙空間、テクノロジーそのもの等を、わかりやすく伝える作り手側からの工夫が必要です。
そこで、サンライズがとった方法が「科学考証」に特化した知識を持つ人々の登用でした。
初期には「スタジオぬえ」という、SF創作を得意とするクリエイターのプロ集団。後期には、東京工業大学他の現役の大学生さんたちが加わりました。
「スタジオぬえ」は、サンライズの前身のひとつである「創映社」等が制作した『0(ゼロ)テスター』(1973年10月~)の時より、SF視点からのアイデア提供などで協力(作品当初はクリスタルアートスタジオ名)。これが縁となり、のちには『クラッシャージョウ』や『ダーティペア』などのアニメ作品も成立しています。
ロボット工学を専攻していた東京工業大学の学生さんは『太陽の牙ダグラム』『装甲騎兵ボトムズ』『銀河漂流バイファム』『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』等の作品で、宇宙空間で活用するメカの構造や素材、運用ポイント、さらに当時ではまだ最先端科学だったAIの存在など、さまざまなアイデアを提供してくれ、それらは『機動戦士Zガンダム』以降の「ガンダム」シリーズや『バイファム』『蒼き流星SPTレイズナー』『機甲戦記ドラグナー』等々に生かされています。
ちなみに、当時協力してくれていた学生さんたちは現在、世界的な学者になられたり、日本の大手各企業などで辣腕をふるったりしておられます。
彼らが考えてくれたSF設定をふたつご紹介しておきましょう。
※本文の一部を修正しました。(2023.7.10 7:50)