「主人公違くない?」 海外版『風の谷のナウシカ』で行われた大幅改変とは
『風の谷のナウシカ』は、日本のアニメーションを代表する不朽の名作です。海外からも高く評価されている作品ですが、同作の海外配給には少々ほろ苦い思い出が……。当時アメリカで公開された海外版『ナウシカ』は、大幅な改変によってほぼ別作品と化していたのです。
パッケージの改変に「ナウシカどこ?」
現在のスタジオジブリ作品は、「ディズニー・プロダクション」と提携して海外向けに展開をしています。厳格なクオリティ管理によって海外からも人気を集めているジブリですが、過去に海外展開をめぐる「苦い経験」をしていたことをご存じでしたか?
実は、スタジオジブリの前身である「トップクラフト」が制作し、宮崎監督の名を世に知らしめた不朽の名作『風の谷のナウシカ』をめぐり、ある事件が巻き起こっていたのです。
今でこそ日本のアニメは海外で絶大な人気がありますが、同作が公開された1984年は日本のアニメがどれほどのヒットに結びつくか、まったくの未知数でした。そのうえ、当時のジブリは海外での配給権の扱いに慣れておらず、「ニューワールドピクチャーズ社」に配給権を売ってしまったことで『風の谷のナウシカ』に対して、大胆な改変が行われてしまいました。
大きく改変されたもののひとつに、映画のタイトルがあげられます。『風の谷のナウシカ』という原作の詩的なタイトルから一転し、英語版では「WARRIORS OF THE WIND(風の戦士たち)」というタイトルに変更されました。
改変はタイトルだけに留まらず、映画本編は116分から20分以上も大幅カットされていました。特に腐海の浄化作用などの設定がほとんどカットされてしまい、単純なアクションストーリーへと一変しています。結果として『風の谷のナウシカ』の世界観やメッセージが大きく変わり、ジブリ作品の持つ複雑さや奥深さ、魅力を感じにくくなってしまいました。
主人公の名前も「ナウシカ」から「ザンドラ(Zandra)」に変更されるだけでなく、パッケージも大きな改変が加えられていました。また、アメリカ版の「WARRIORS OF THE WIND」のパッケージでは、ロボットやペガサスに乗った謎の戦士たちが中心となっており、ナウシカらしき女性はサブキャラクターであるかのように描かれています。この大幅な改変に、原作を知る一部の海外ファンからは驚きの声があがっていたようです。
『宮崎駿全書』(著:叶精二)によると、『風の谷のナウシカ』の改変について、宮崎駿監督はほとんど知らされていなかったようです。変更内容を知ったあとは猛抗議したものの、時すでに遅く、そのまま「改変英語版」が発表されてしまったといいます。
『風の谷のナウシカ』の改変事件からおよそ20年後、ディズニーから完全版となるパッケージが発売され、ようやくジブリは海外展開をめぐる「苦い経験」から脱却できたのではないでしょうか。
海外版の声優には日本版と同じく豪華な顔ぶれがそろっており、クシャナ殿下には『キル・ビル』で主演を務めたユマ・サーマン、ユパ様には『X-MEN』のプロフェッサーX役でお馴染みのパトリック・スチュワートなど、ハリウッドを代表するキャストが起用されています。ほかにも映画のタイトルは日本版から直訳した『NAUSICAA OF THE VALLEY OF WIND』に変更され、作品時間もカットされていません。
(ハララ書房)