ガンダムを上回る『ザンボット3』の戦争描写が、「23年後」にもたらした衝撃とは
富野作品に流れるテーマ性の確立
主人公・勝平の声が大山のぶ代だったため、「えっ、ドラえもんが操縦するロボットヒーローものかよ」という戸惑いもあったのですが、大山のぶ代のユーモラスさのある声のお陰で、視聴者は救われた部分もあるように思えます。それほどまでに『ザンボット3』は悲惨さを極めたハードな物語だったのです。
勝平たち神ファミリーは、地球を守るためにガイゾックと戦います。それなのに、守られている側の人類はそうは感じていなかったのです。勝平の同級生で、不良グループのリーダー・香月(声:古川登志夫)は、ガイゾックの襲撃によって両親や幼い妹と生き別れてしまい、「神ファミリーがいるから、ガイゾックが襲ってくる」と勝平たちを逆恨みします。家を失った避難民に向かって、香月はヘイトスピーチを繰り返すのです。
勝平の幼なじみのアキ(声:川島千代子)さえも、勝平のことを憎むようになってしまいます。人と人とは容易には理解しあうことができない―。『ザンボット3』で描かれたこのテーマ性は、『機動戦士ガンダム』『伝説巨神イデオン』へと受け継がれていくのです。『ザンボット3』によって、富野監督は作家性を確立したといえるでしょう。
1970年代の地方局だから許された「人間爆弾」

予算も限られ、スタッフの体制も充分ではなかったため、アニメーション作品としては、一部に洗練されていないところもある『ザンボット3』ですが、逆に視聴者の脳裏に強烈に焼き付くことになります。第16話「人間爆弾の恐怖」から、“人間爆弾”をめぐる壮絶なクライマックスへと突入していくのです。
ガイゾックに拉致された避難民たちは手術を受け、体内に爆弾を埋め込まれてしまいます。本人はそのことに気づかずに町へ戻り、人類側は甚大な被害を被るのでした。そして香月の仲間や勝平とようやく和解を果たしたアキまでも、人間爆弾の犠牲者となるのです。
1999年に発刊された『富野由悠季全仕事』(キネマ旬報)に掲載されたインタビューのなかで、富野監督は『ザンボット3』の制作局が名古屋テレビだったことについて、こう語っています。
【あれがもしテレビ朝日だったら、明らかにシナリオの段階でチェックを受け、プロデューサーが「お前ら本気か」と飛んできたでしょう。地方局の人たちは、まだ物を作ることに自分たちがどう関与していいのかわからないという時代でしたので、誰も何も言わなかったんです】