『君たちはどう生きるか』が「難解」と言われるワケ 暗喩だらけの本作を読み解く3つのポイント
宮崎駿監督の作品を映画館で見て「なんだかすっきりしない気持ち」で席を立つなんて想像できたでしょうか。多くのファンは『君たちはどう生きるか』を難解な作品だと評価していますが、3つのポイントをおさえれば隠されたメッセージに気づくでしょう。この記事では映画の内容を整理します。
宮崎監督の10年ぶりの新作は謎だらけ!
広告を打たず、一切の情報が伏せられたまま公開を迎えた宮崎監督の新作『君たちはどう生きるか』。1回見ただけでは理解しきれない重層的なテーマが内包された本作について3つの視点から内容を整理します。
劇場で視聴後、何が何だかわからなかった、他の人の意見を聞きたい、何で賛否両論が巻き起こっているのか知りたい、という方の参考になれば幸いです。
この記事は映画の重大なネタバレを含みますので、未見の方はご注意のうえお読みください。
●難解と言われる理由
この記事を書いている時点で映画が公開されて48時間が経過しました。映画レビューサイトやSNSには次々と感想がアップされています。実際のファンの声を調べてみると「宮崎駿監督の集大成」「ストーリーが分からないが凄かった」と高評価する人と「つまらなかった」「意味がわからない」と低評価する人の真っふたつです。
これまで高い評価を受けていた宮崎駿監督作品にもかかわらず、本作の評価が分かれてしまったのは分かりづらさが原因でしょう。高評価をつける人も低評価を付ける人も、本作が難解だという点においては共通しているからです。
本作を難解にしているのは、複数の要素が(ムリヤリ)1本の映画に詰め込まれているからだと思われます。本来『君たちはどう生きるか』は母親を失った少年・牧眞人(まき・まひと)が異界に行き、さまざまな試練を乗り越えて成長して戻ってくる」シンプルな物語であり「異界での人格的成長や心理的欠損の充実によって現実の問題が解決される」という「ゆきて帰りし」王道のファンタジーです。
さらに具体的内容に触れて、その表面をなぞれば、母を亡くして鬱屈としていた眞人が異界で精神的に成長し、母の死を受け入れ、継母の夏子との関係性も修復されてハッピーエンドを迎えるというシンプルな物語だと言えます。このストーリーは本質的に『千と千尋の神隠し』と同じ構造なので、これまでのジブリ作品のエンディングのように満足感のある視聴体験ができたはずです。
ところが本作ではそうはなりませんでした。表面上のストーリーよりも隠喩によって描かれたメッセージの方が圧倒的に強力だったからです。そのため視聴者は日本最高レベルの音楽と凄腕アニメーターの作画による王道のストーリーを味わったにもかかわらず、ストーリーの全体像が掴めず、まだ何か隠されていることがあると感じて満足できないのです。
●ポイント1 宮崎監督の多面性が各キャラクターに託されている
本作を理解するには3つのポイントがあります。そのひとつ目はメイン登場人物を宮崎監督の心の欠片として見ることです。主人公の眞人は自傷によって上手く立ち回る「悪さ」のある少年で、宮崎監督の心の原点に近い部分のシンボルだと言えるでしょう。
アオサギは異世界への案内役だけでなく、そのニヒリズムと醜いルックスから宮崎監督の露悪的な部分が結晶になったようです。
石の世界をつくった創造主の大叔父はまさに衰え、世界の維持に苦しんでいるスタジオジブリの経営者としての宮崎監督にしか見えません。
後継者はおらず、ムリヤリ世界を維持しようとして資格がないのに石を積み、カタストロフを招いてしまったインコ王はもしかして鈴木プロデューサーでしょうか? 非常にシンボリスティックですね。何気ないキャラクターのセリフは宮崎監督のメッセージなのです。