『もののけ姫』にケンカを売った? 「生きろ。」に反応した富野由悠季、庵野秀明のメッセージとは
宮崎駿監督の代表作『もののけ姫』が、「金曜ロードショー」で放映されます。戦乱の時代を舞台にした『もののけ姫』は、社会現象と呼ばれるほどのメガヒット作となりました。劇場公開時のキャッチコピーは「生きろ。」。『もののけ姫』が制作された時代背景と、「生きろ。」という言葉に敏感に反応したクリエイターたちの動向を振り返ります。
1997年、日本のアニメは新次元の扉を開けた
10年ぶりとなる宮崎駿監督の新作アニメ『君たちはどう生きるか』が、2023年7月14日より劇場公開されています。同じく、宮崎駿監督の大ヒット作『もののけ姫』(1997年)は、7月21日(金)の「金曜ロードショー」(日本テレビ系)で放映されます。
国民的アニメーション作家と称される宮崎駿監督ですが、その最高峰作として『もののけ姫』を挙げる人は多いのではないでしょうか。自然と文明との関係性を描いたシリアスなテーマ、スタジオジブリのハイクオリティな作画力、有名俳優らを声優に起用した話題性、日本テレビを中心にした宣伝攻勢もあって、興収は193億円に。従来の国内映画の興収記録を大幅に塗り替えるメガヒット作となりました。
日本のアニメーションが、それまでとは異なる新次元に突入した画期的な作品だったと言えるでしょう。「金ロー」での放映は今回で12度目となる『もののけ姫』ですが、劇場公開時のキャッチコピーは「生きろ。」でした。シンプルなコピー「生きろ。」に反応した人気クリエイターたちの動向は、興味深いものがあります。
「生きろ。」とは真逆だった旧劇場版『エヴァ』のコピー
戦乱の絶えなかった中世の日本を舞台にした『もののけ姫』は、制作された1990年代の日本の社会状況を色濃く反映した時代劇となっています。1991年~93年に、日本のバブル経済は崩壊。以降、現在まで続く「失われた時代」が始まることになります。1995年には阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件が起き、それまでの価値観が大きく揺らいだ世紀末でした。
自殺者も急増し、警察庁の発表では1998年から年間の自殺者数が「3万人」という大台が14年間にわたって続くことになります。そんな不穏な社会状況に向かって、『もののけ姫』の「生きろ。」というコピーが放たれたのです。
このコピーを考案したのは、『となりのトトロ』(1988年)でサツキとメイの父親役を声優として演じたコピーライターの糸井重里氏でした。『もののけ姫』の劇中、主人公のアシタカが森で育った少女・サンにつぶやく「生きろ、そなたは美しい」や、ラストシーンでやはりアシタカが語る「ともに生きよう」というセリフを活かした、非常に端的なコピーでした。
ちなみに『もののけ姫』が封切られた7月12日の翌週、7月19日からは庵野秀明監督の『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』が公開されています。こちらのキャッチコピーは「だから みんな、死んでしまえば いいのに…」でした。
主な登場キャラクターが次々と亡くなるという壮絶なラストを示唆したコピーでした。「生きろ。」「死んでしまえば いいのに…」という実に対照的な惹句が躍るポスターが、同時期の映画館に張り出されることになったのです。
賛否を呼んだ『Air/まごころを、君に』の興収は、24億7000万円でした。