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「美と醜悪」は紙一重? 楳図かずお作品の美少女たちに重なる「ヘビ」のイメージとは

恐怖を引き立てる、「美少女x狂気」のコントラスト

『洗礼』の上原さくら。『楳図かずお・美少女コレクション』(玄光社)より
『洗礼』の上原さくら。『楳図かずお・美少女コレクション』(玄光社)より

 もちろん、美少女の「おろち」が卵を丸呑みしたり、床や地面をズルズルと這い回ることはないのですが、おそらくは神の使いとされる「白蛇」の化身なのかもしれません。 

「おろち」を漢字に変換すれば「大蛇」となることも、暗にその事実を示しているように思えますが、物語がオムニバス形式で進み、あくまでも「狂言回し」的な立場で人びとを俯瞰して見る「おろち」の視点は、屋根裏や藪の中から物事をじっとりと静かに眺める「蛇」と、やはりどこか重なります。

 実際、『美少女コレクション』内のインタビューで楳図先生自身が『おろち』を「蛇モノの集大成」と語っています。

 またストレートに「美」への執着を描いた『洗礼』も、楳図作品の「美少女」を語る上で忘れられない作品です。かつての名女優、若草いずみが、自らの若さと美しさを保つために、娘の上原さくらに自分の脳を移植することで若返りをはかる……という物語です。

 さくらが「普通の女としての幸せ」を求め、担任の谷川先生に恋をし、その家庭に入り込み、谷川の妻を追い出すために陰湿ないじめを繰り返す様子は、「美少女の狂気」というコントラストによって、より「恐怖」が際立つ形で描かれています。小学生のさくらが谷川を誘惑する姿は、なかなか不気味です。

『楳図かずお 美少女コレクション』は『おろち』の連載50周年と『洗礼』の連載45周年を記念して企画されたもので、この2作品を中心に展開されているのですが、その内容は楳図かずおという稀代の漫画家の作品を知るアーカイブとしても秀逸なものとなっています。筆者も『まことちゃん』の「ビチグソ占い」の掛け声である「イアラ―」が1970年の楳図作品の名前であることを本書で初めて知った次第です。

 ちなみに、この「ビチグソ占い」では、主人公のまことちゃんが蛇のようなビチグソをたれるシーンもあったと記憶しているのですが、「美と醜悪」と同じように「笑いと恐怖」も、どこか紙一重のような気がします。

「子供がもつ無邪気な残忍さ」という視点で見れば『まことちゃん』も、ともすれば恐怖マンガなのかもしれません。沢田家のママ(じつは美女)が「へび女」になってしまうエピソードは、まさに楳図かずお作品の真骨頂ではないでしょうか?

(渡辺まこと)

【画像】「影」があるからこそ魅力的? 楳図かずお作品の美少女たち(5枚)

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