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ホラーマンガの女王が『サバイバー』で描く、「児童虐待」の恐怖と大人の無関心

ホラーマンガの女王的存在・犬木加奈子先生の最新作『サバイバー 〜破壊される子供たち〜』が、Webマンガ配信サービス「まんが王国』で2019年9月15日から配信開始しました。すぐそばに潜む児童虐待の恐怖と大人の無関心をリアリティたっぷりに描き出しています。

今、どこかで起きているかもしれない「児童虐待」の恐怖

犬木加奈子最新作『サバイバー~破壊される子供たち~』 Webマンガサイト「まんが王国」で配信中(画像:ビーグリー)
犬木加奈子最新作『サバイバー~破壊される子供たち~』 Webマンガサイト「まんが王国」で配信中(画像:ビーグリー)

『不気田くん』『不思議のたたりちゃん』など、読者の心にすっと入り込むような恐怖感を与える作品を生み出してきた、ホラーマンガの女王的存在・犬木加奈子先生。彼女の新作『サバイバー 〜破壊される子供たち〜』が、Webマンガサイト「まんが王国」で2019年9月15日(日)から配信されています。

 主人公・海里くんの境遇の厳しさは、生まれてすぐに始まっています。暴力で支配される、いびつな関係の父と母に生まれた彼は、両親から愛情ではなく「暴力と育児放棄」を注がれるうちに、心も身体も破壊されていくことに。

 しだいに海里くんの頭の中には、何人もの「自分ではない誰か」が住み始めます。自分と自分の頭の中にいる誰かとの境界線が、徐々に消えていく海里くん。小学校に上がり、両親以外の人間関係に接することができても、彼の心痛を理解できる人間はごくごくわずかです。担任の教師や校長先生にとって、まともな教育を受けずに育ってしまった海里くんは、「虐待を受けている救うべき子供」ではなく、「周囲に迷惑をかける面倒なやつ」に過ぎないのです。

 彼の異変にいち早く気づき、その境遇をどうにかしたいと奔走する保健の先生の行動が、こうした無関心の人びとの心ない言動のせいで、作中では異質なものとして映ります。ただ、子供を助けたいだけなのに、彼女は職を失うほどの決意を強いられ、作品を取り巻く狂気じみた雰囲気にさらされるのです。

 そんな数少ない理解者、保健室の先生というささやかな保護を離れると、海里くんを「我が家」が出迎えます。しかしそこは、彼にとって憩いの場ではありません。より残酷に彼を痛めつけることに目を光らせる父親と、その残虐さを止められずに諦めが芽生えている母親のもと、彼の地獄は一層深まっていきます。

 終わりの見えない、いや、待ち受けるのは最悪の展開しかないのか……と感じさせる閉塞感。犬木先生が描く大人たちの、海里くんに対する無関心と、彼のストーリーにあまりに関与しない姿勢も、読者の不安感や心のざわつきをさらにあおり立てます。

 犬木先生のストーリーテリングとタッチの持つ不思議な迫力を秘めたホラー感が、そういう気持ちにさせる一面もあります。ですが、それに加えて本作のストーリーが「実在した虐待事件」を元にしているという点も、私たちに詰め寄るようなリアリティを発揮していると考えられます。

 いじめられっ子に対して、慈しみではなく気持ち悪さを抱いてしまう心。そうした大人の非情が、今この瞬間も起きている虐待に、間接的に加担しているのかもしれません。現実味のある警告を含んだ犬木ワールドは、読んでいて冷や汗が出るような体験でした。

(サトートモロー)

【画像】恐ろしくも独自の世界観で読者を誘う! 犬木加奈子作品の世界(6枚)

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