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手塚治虫が描いた戦争奇譚『アドルフに告ぐ』 環境に応じて「擬態」する人間たちの悲劇

「マンガの神さま」手塚治虫氏の代表作『アドルフに告ぐ』が、1983年に「週刊文春」で連載が始まって40年を迎えました。ナチスドイツ独裁政権を築いたアドルフ・ヒトラーと同じ名前を持つ若者たちが、数奇な運命をたどる物語です。終戦記念日のこの機会に、戦争がもたらす不条理さを描き出した『アドルフに告ぐ』を再読してみるのはいかがでしょうか。

450万部を超える大ベストセラー

手塚治虫漫画全集『アドルフに告ぐ』第1巻(講談社)
手塚治虫漫画全集『アドルフに告ぐ』第1巻(講談社)

 あらゆるジャンルでヒット作を放った漫画家・手塚治虫氏ですが、晩年を代表する作品に『アドルフに告ぐ』を挙げる人は多いのではないでしょうか。アドルフ・ヒトラーによる独裁政権が君臨した第二次世界大戦時のドイツ、そのドイツと軍事同盟を結んだ日本を舞台にした壮大な社会派サスペンスとして大人の読者を魅了しました。

 1983年1月~1985年5月に「週刊文春」で連載され、コミックの累積部数は450万部という大ベストセラーに。イラストレーター・横山明氏が手がけた装画も印象的でした。

 手塚治虫氏が生み出した傑作のひとつ『アドルフに告ぐ』が発表されてから40年。作品に込められたメッセージ性を改めて振り返りたいと思います。

3人のアドルフをめぐる数奇な物語

 物語は1936年8月、ドイツで開かれた「ベルリン五輪」から始まります。当時のドイツは、ナチ党を率いるアドルフ・ヒトラーがドイツの最高指導者に選ばれていました。「ベルリン五輪」は、ナチスドイツの権威を世界に示すプロパガンダとして利用されたことが知られています。

 新聞記者の峠草平は「ベルリン五輪」の取材に訪れていたのですが、ドイツ留学中だった弟の勲を何者かに殺されてしまいます。やがて、勲はヒトラーの出生に関する秘密文書を隠し持っていたために、ゲシュタポ(ドイツ秘密警察)に狙われていたことが分かります。草平は否応なく、秘密文書をめぐる争奪騒ぎに巻き込まれていくのでした。

 一方、日本の神戸には「アドルフ」と呼ばれるふたりのドイツ人の少年がいました。ひとりは日本人の母とドイツ人の外交官の父を持つアドルフ・カウフマン。もうひとりはパン屋を営むユダヤ系ドイツ人の両親から生まれたアドルフ・カミルです。

 大の仲良しのカウフマンとカミルでしたが、エリート一家に生まれたカウフマンはAHS(アドルフ・ヒトラー・シューレ)というナチス幹部を育てる寄宿学校への入学が決まり、ドイツへと渡ります。AHSで優秀な成績を収めたカウフマンは、ヒトラー総統のお気に入りとなり、若くして秘書官に抜擢されることになります。

 第二次世界大戦を背景に、3人のアドルフの数奇な人生を、手塚治虫氏はまるで「運命の糸車」をあやつるかのように巧みにつむいでみせるのでした。

【画像】大人こそ読み直したい手塚治虫作品 ミステリー、サスペンス要素は一級品!(6枚)

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