【映画『宮本から君へ』】幼稚で不器用でバカだけど、一途な男の狂想曲
1990年から1994年にかけてモーニング(講談社)にて連載された、新井英樹先生による伝説的マンガ『宮本から君へ』が実写映画となり、2019年9月27日より公開。2018年にもドラマ化された本作ですが、今回は主人公・宮本の恋愛にフォーカス。俳優陣が命を燃やし尽くすような、熱のこもった演技に終始圧倒される時間でした。
たとえ共感できなくても、命を燃やす主人公から目が離せない
1990年から1994年にかけて連載されたマンガ『宮本から君へ』(新井英樹作、既刊12巻)公開を原作とした映画『宮本から君へ』が、2019年9月27日より公開されています。
主人公で文具メーカーの営業マン・宮本浩は、不器用さと大人になりきれない幼稚さが目立つ、ちょっとダメな男。本作では彼の仕事や恋愛の生き様が描かれ、2018年にはテレビ東京「ドラマ25」で実写ドラマ化されました。2019年秋、ドラマの俳優陣そのままに、宮本が帰ってきたのです。
マンガ連載時から、宮本の暑苦しさと往生際の悪さにうんざりする読者がいたくらい、「痛々しさ」をあたりに振りまく宮本。2018年のドラマでは、どちらかというと営業マンとして、苦虫を噛み潰すような毎日を争う宮本が描かれていました。
今回は、愛する女性・靖子と結ばれるまでの物語が展開し、痛々しさはさらに増すばかり。女性はもちろん、男の立場でさえ、「こいつとは仲良くなれないなあ」と思ってしまうような空回りを見せます。
ただ、一歩離れて客観的に「こいつアホだな」と罵ってしまう自分とは別に、もう1つ胸にうずくものがあるのです。
果たして自分は、自分の心根の弱さや情けなさ、未熟さを抱えたまま、正面切ってああやって、他人とぶつかることができるのだろうか……と。
学もなければ金もない。愛する人を一生守ってみせると言ったのに、彼女がすぐ隣で悲惨な目にあっているのに、自分は泥酔して気づくことさえできなかった。それがきっかけで彼女からは拒絶され、敵意の目を向けられている。それなのに、もう一歩力ずくで相手の心に踏み入ることができるのだろうか。不器用でバカだけど、渾身の愛を伝えようと命を燃やす宮本に、気がつけば目が離せなくなります。
スクリーンを暴れまわる登場人物たちを演じきる、池松壮亮さん、蒼井優さんらの演技も、観客の心をがっしりつかみます。佐藤二朗さんや、残念ながら今は目にする機会がなくなってしまったピエール瀧さんの、昭和臭(平成臭?)あふれる中年の演技もいい味を出しています。宮本の名前の由来であり、作者がファンでもあるエレファントカシマシのヴォーカル・宮本浩次さんが歌う主題歌も、作品のイメージとぴったりです。
2019年もあと100日を切りましたが、筆者としては今年の邦画ベスト10に入るくらい、心をわしづかみにする作品でした。原作を知らない人、ドラマを知らない人も、ぜひスクリーンに足を運んでください!
(サトートモロー)
※映画『宮本から君へ』は、2019年9月27日(金)よりロードショー。TVドラマ版もHuluおよびParviで全12話が配信中。