人気がありすぎて終焉? 仮面ライダーV3「ゾル・死神・地獄・ブラック」素顔の敵幹部が減少した理由とは
人気キャラの乱造が逆効果に?

こういった企画案のなかで実際に採用され、3クールの目玉となったのが「部族編」と呼ばれる展開でした。毎月、大幹部と率いる怪人たちが入れ替わるというもので、前述の児童雑誌との関係も大きく影響しています。
児童雑誌から毎月の目玉となるイベントが欲しいということで考えられたのが、大幹部が次々と襲ってくる展開でした。この毎月の目玉という部分は何も『V3』だけに限らず、他の作品でも求められていたそうです。同時期の人気作品であった『マジンガーZ』も同じように定期的にイベントを提供していました。
この大幹部の登場が盛り上がると考えられた要因は、その人気にあります。前述したようにドクトルGを強く描いたことで盛り上がったように、当時の子供たちには敵幹部は単なる悪役というよりも、人気キャラとしての面が強くありました。
素顔をさらして怪人たちを指揮する大幹部は、当時の子供たちにとって恐怖とともに憧れを寄せる存在だったのです。そこにはやはりベテラン俳優による演技力という部分も魅力として加味されていたのでしょう。筆者も今でも大幹部の演技には見惚れてしまう部分が多くあります。
そういった理由でキバ一族、ツバサ軍団、ヨロイ族といったこれまでにない部族集団の登場が決定しました。この他にもいくつか予定されていたようで、企画案には角族、トゲ族、ヒレ族、ナンタイ族といった記述も見られます。これらは未使用に終わりましたが、先行してデザインされた怪人の一部は終盤にヨロイ族の怪人として使用されました。
こうして満を持して動いたデストロンの大幹部攻勢でしたが、結果的には思ったほど効果が現れませんでした。短期間で交代する大幹部に、子供たちがあまり魅力を感じなかったからと考えられます。
個性を出す前に矢継ぎ早に交代するのでは魅力を見せる暇がなかったのでしょう。結果的に大幹部攻勢はヨロイ族を率いるヨロイ元帥で終わりを告げました。もっとも宿敵としてライダーマンが登場したことが続投の大きな理由で、それがなければ第5の大幹部が登場していたかもしれません。
この失敗が原因かわかりませんが、以降のライダーシリーズではしばらくの間、素顔の大幹部という悪の花形ポジションは少なくなりました。逆に普段は青年の姿で変身して戦うアポロガイスト、巨大な造形物であるキングダークや十面鬼といった個性的な大幹部の登場という、別のパターンで個性的な悪役が登場することになります。
近年のライダーシリーズを見ると、より個性的な悪役が増えました。もっとも善と悪の境界線があやふやなシリーズが主流となっているので、一概に悪役でカテゴライズできないかもしれません。しかし、往年の特撮ファンには素顔のままで仮面ライダーと互角に戦える大幹部に憧れを今でも抱いていることでしょう。
(加々美利治)