『ブラック・ジャック』みんなマジだと思ってた 「あったら怖い奇病」3選
[病名]人面瘡、フェニックス病、獅子面病、グマ、魚鱗癬、ユーイング肉腫、組織萎縮症、本間血腫、血友病、ブラック・ジャック病……このなかで実在しない病気はどれでしょうか? 『ブラック・ジャック』には、読者を信じさせてしまう恐ろしくてリアルな奇病が多数ありました。
情報が少ない時代、奇病はリアルに響いた
手塚治虫先生の代表作『ブラック・ジャック』が1973年に「週刊少年チャンピオン」で連載開始されてから、もうすぐ50周年を迎えます。
作中では、天才外科医ブラック・ジャック(以下、B・J)が数々の奇病に立ち向かいますが、その病気のなかには手塚先生が創作した、いわゆる「オリジナルの病」もあります。手塚先生が医学博士の学位を持っていることもあり、リアルタイムで読んでいた時代は、「世界にはいろんな病気があるんだな」と信じた読者も少なくなかったでしょう。そこで、『ブラック・ジャック』に出てきた「マジだと思っていた、あったら怖い奇病3選」を振り返ります。(※内容は少年チャンピオンコミックス参照)
●病名「人面瘡(じんめんそう)」:第5巻39話「人面瘡」
ある時、顔が異常に腫れた男が、「人面瘡」だと言って助けを求めてきました。男は二重人格者で、B・Jは精神的な原因があると考え、怒鳴り散らす人格のときに拳銃を撃つ荒療治でその人格を消します。そして、男は整形手術で元の顔を取り戻しますが、実は指名手配中の殺人鬼でした。気づいたB・Jを殺そうとした瞬間、なんとまた人面瘡を発症します。男は前途を悲観し、崖から身を投げ自殺します。B・Jは人面瘡の顔の方が、「良心のときの顔だったのかもしれない」と推察するのでした。
このエピソードは、物語の冒頭で実例が紹介されます。昭和14年に石川県でヒキガエルを殺した少年のハラに、そのヒキガエルの液体が付着し、ハラにカエルの顔が現れた。虫を与えるとうまそうに食べた……といった内容でした。もちろんフィクションですが、妙にリアリティがあったため、実在する珍しい病気だと信じた読者は多かったようです。
作中でB・Jが「レッキとした病名はないが、伝説や小説に出てくるねぇ」と言っています。実は、中国・唐の時代に書かれた「酉陽雑俎」という書物に「人面瘡」「人面疽(じんめんそ)」という記述があり、古くから妖怪・奇病として多くの読み物に使われています。日本でも江戸時代にはいくつもの読み物に使われていて、現代では横溝正史の短編推理小説のタイトルにもなっています。
●病名「グマ」:第11巻102話「99.9パーセントの水」
安楽死を専門とする医師・Drキリコの妹が、B・Jに助けを求めに来ました。キリコが自分自身を安楽死させようとしていると言うのです。キリコは南米で、謎の伝染病「グマ」にかかりました。腹痛、下痢に始まり、最後は痩せ細って脳症状を起こし狂い死にするという奇病です。肝臓にたまる水には、病原菌も寄生虫も見当たりません。
B・Jが肝臓を半分切り取ってその水を凍らせてみると、99.9パーセントは水だがアメーバの一種である奇妙な生物であると判明します。この気味の悪い生き物、もしかしたら地球の外から来たかもしれない、B・Jはそう言いましたが……。
この病気は、「南米アマゾン上流に広がっている伝染病」というのが、ちょっとしたフックでした。当時、未知の世界だったアマゾンへ乗り込むTV番組「川口浩探検隊」シリーズが人気だったことなども影響して、本当にありそうな病気だと思った読者も少なくなかったと思います。