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『ウルトラマンA』の南夕子は、なぜ途中で宇宙に旅立った? 放送時の悲しい裏事情

1972年の『ウルトラマンA』は男女ふたりがひとりのウルトラマンに変身するという、今までにない設定でした。ところが放送途中に突然、南夕子が宇宙へ旅立って姿を消してしまいます。3人のシナリオライターの企画をミックスするやり方が裏目に出て、彼女のキャラを活かしきれなかったのが原因でした。

斬新なアイデアが途中で空中分解

「ウルトラ特撮 PERFECT MOOK vol.10 ウルトラマンA (講談社シリーズMOOK)」(講談社)
「ウルトラ特撮 PERFECT MOOK vol.10 ウルトラマンA (講談社シリーズMOOK)」(講談社)

 1972年の『ウルトラマンA』は、男女ふたりが「ウルトラタッチ」をしてウルトラマンに変身するという斬新な設定です。しかし、番組の途中で、ヒロインの南夕子は姿を消します。設定が活かされないまま退場したのは、この斬新な設定の発案者のメインライター・市川森一さんが途中で離脱したのが理由でした。

「ウルトラ特撮 PERFECT MOOK vol.10 ウルトラマンA」によると、『帰ってきたウルトラマン』の次回作は、市川森一さん、上原正三さん、田口成光さんというウルトラシリーズを手がけてきたシナリオライターの3つの企画を一緒にしたものです。上原さんの案は5人目のウルトラ兄弟で『帰ってきたウルトラマン』と同一世界で展開するというもの、田口さんの案には怪獣を超える力を持つ「超獣」の設定が盛り込まれていました。

 そして市川さんの案は、男性の勇気と女性の優しさが一体になってウルトラマンになる、という設定でした。この3つの要素が融合されて、現在の『ウルトラマンA』の設定となります。

 ところが、3人のライターが交代で物語を書いたために、いつまでも南の立ち位置が明確になりませんでした。そして、肝心の男女一体のウルトラマンを生み出した市川さんがわずか14話でメインライターを降りてしまいます。のちに市川さんは、1971年の『シルバー仮面』で「ウルトラマン的な作品」を書き尽くし、一種の燃え尽き状態だったと語っていました。市川さんはこの後、特撮分野を離れ、1974年『傷だらけの天使』のような、大人向けのドラマのライターに転身します。

 そして南夕子は、市川さんの離脱で存在意義を失ってしまいます。市川さんに代わって招聘された、シナリオライターの石堂淑朗さんが南の花道を作りました。そして、第28話「さようなら夕子よ、月の妹よ」で、南の正体は地球に派遣されていた月星人の末裔と明かされ、彼女は仲間の待つ冥王星に旅立っていきます。

 南を演じた星光子さんは自身の降板を聞かされておらず、脚本を渡されたとき初めて知ったとのことです。降板の理由を知らされておらず、自分の演技が下手だったせいだとずっと自分を責めていたと、2012年の『ウルトラマンA』40周年のイベントで語っていました。ただ、南の出番は28話で終わりではなく、38話でウルトラの父に派遣されて雪超獣スノーギランの攻撃によって目が見えなくなった人びとを助け、最終回52話では北斗に正体がウルトラマンAだとバレたら地球にいられないと伝えるために登場しました。

 その後、本作のTBS側のプロデューサーの橋本洋二さんが、自らの手で作品を終わらせるべきと説得したことで、市川さんは終盤になって復帰します。第48話と最終回の脚本を担当し、『ウルトラマンA』の世界を締めくくりました。今となっては実現不可能ですが、市川さんがずっと作品に関わって、南が最後までコンビで活躍する『ウルトラマンA』も見たかった人も多いでしょう。

『ウルトラマンA』の世界では離れ離れになった北斗と南でしたが、2008年の映画『大決戦!超ウルトラ8兄弟』ではパラレルワールドの世界で結ばれて夫婦となり、一緒にパン屋を経営しています。

(LUIS FIELD)

【画像】月星人として神秘的な白い服をまとった美しい南夕子を見る

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