アニメ『コブラ』のベストエピソード? 歴代「主役声優」が集合した『タイム・ドライブ』
2023年9月8日に亡くなった漫画家・寺沢武一氏の代表作「コブラ」は、パルプ雑誌時代のレトロなスペースオペラを思わせる作風が独特でした。そんな今なお色あせない魅力をたたえたハードボイルド作品を振り返ります。
レディの素顔と正体が明らかになるエピソード

頬をかすめて飛ぶ弾丸をものともせず、ゆらりと足を踏み出して左腕のサイコガンをおもむろに構える。そう、それは紛れもなく「ヤツ」さ……!!
銀河パトロールに追われる賞金首でありながら、コブラは犯罪組織「海賊ギルド」とも対立する一匹狼の宇宙海賊です。相棒はアーマロイドの「レディ」だけ。左腕に仕込んだサイコガンと持ち前のタフな肉体を武器に、ロマンと愛を求めて今日も大宇宙を駆け巡る……!
2023年9月8日に亡くなった漫画家・寺沢武一氏の代表作『コブラ』は、1978年に「週刊少年ジャンプ」で連載がスタートし、ハードボイルドなストーリーでたちまち人気になりました。そして1982年7月に劇場用オリジナル作品としてアニメ化された後、同年10月よりTVアニメシリーズの放送がスタートし、さらなる人気を獲得したのです。
本作のアニメ版で印象的なエピソードといえば、劇場版のベースとなった初期エピソード「イレズミの女編」、スポーツ選手を装って潜入捜査する「ラグ・ボール編」、海賊ギルドの幹部サラマンダーと対決する「シドの女神編」あたりを思い出す人が多いでしょう。
しかし筆者があえて推したいのは、TVアニメシリーズ終了後、2009年にリリースされたOVA(ビデオ販売用オリジナルアニメーション)『タイム・ドライブ』です。
『タイム・ドライブ』は「時のひずみ」に飲み込まれて存在が消えかかっているレディを救うため、コブラが20年前の世界に入り込んで原因を探す……という物語です。
作中の「20年前」とは、コブラが整形する以前、レディとコンビを組みはじめた頃の時系列です。レディがどのように若き日のコブラと出逢ったのか? なぜアーマロイドのボディになったのか? そもそもレディはどのような女性で、どんな素顔をしていたのか? つまり『タイム・ドライブ』はコブラとレディのコンビ結成秘話を描く物語なのです。
さらにもう一点。このエピソードは、リリース後に大きな意味を持つことになってしまいます。長年コブラを演じてきた声優・野沢那智さんの、「最後のコブラ」になってしまったのです。
あなたは野沢那智派? それとも松崎しげる派?

野沢那智さんは『タイム・ドライブ』以降のアニメ展開でも続投するはずでした。しかし病気のために降板し、新たなTVアニメシリーズでは、『タイム・ドライブ』で若き日のコブラを演じた内田直哉さんがバトンを受け取ることになります。
内田直哉さんはアニメ版『コブラ』では3代目。初代は劇場版を担当した松崎しげるさん、2代目が野沢那智さんです。そのあたりの出演作について、『コブラ』の歴代アニメシリーズを振り返ってみましょう。
●【SPACE ADVENTURE コブラ】劇場用オリジナル作品/1982年7月公開
松崎しげるさんがコブラを演じた初アニメ化作品。「イレズミの女編」をベースにしつつオリジナル展開で物語を描く。出﨑統監督のテイストが色濃く反映されており、やや大人向けのSFロマン作品となりました。ハードボイルド成分が高いのも特徴です。
●【スペースコブラ】TVアニメシリーズ/1982年10月より/全31話
野沢那智さんがコブラを演じた、もっともポピュラーなシリーズ。原作コミックをなぞる形で、長い連載シリーズのおよそ半分ほどのエピソードを映像化しました。
●【COBRA THE ANIMATION】OVA/2008年~2009年/『ザ・サイコガン』全4話、『タイム・ドライブ』全2話
『コブラ』生誕30周年を記念して企画された新たなアニメシリーズ。コブラ役はもちろん野沢那智さん。TVシリーズと違ってハードボイルド成分が濃くなっているため、野沢さんの演技も落ち着いたものとなっています。また『タイム・ドライブ』では、若き日のコブラを内田直哉さんが担当しました。
●【COBRA THE ANIMATION TVシリーズ】TVアニメシリーズ(BS放送)/2010年1月より/全13話
野沢那智さんの降板により、内田直哉さんがコブラを演じた新シリーズ。映像化されていなかった原作エピソードをセレクトしてアニメ化しました。
劇場版からスタートしたアニメ版のコブラは、松崎しげるさん、野沢那智さん、内田直哉さんへとバトンが渡りました。もっとも長く演じたのは、もちろんTVシリーズを担当した野沢那智さん。そのため「コブラ=野沢那智さん」のイメージを持っている方が圧倒的でしょう。
その一方で、劇場版から入った人は「松崎しげる版こそコブラだ!」と思うはずです。劇場版とTVシリーズではそもそも作品のトーンが違いますし、松崎しげるさん演じるコブラはロマンス映画の側面を持つ劇場版にぴったりのセクシーなボイスでした。松崎しげるさんが歌う主題歌「DAYDREAM ROMANCE」の切なく、そして力強いバラードはまさに歌声のサイコガン。聞く者のハートを何人も撃ち抜いたことでしょう。
また「歌手・松崎しげる」としては、実は『ザ・サイコガン』以降の新アニメシリーズで、エンディングテーマを担当しているのです。
つまり『タイム・ドライブ』は、コブラとレディのオリジン話であるとともに、野沢那智さんの最後のコブラであり、松崎しげるさん・野沢那智さん・内田直哉さんの3人のコブラが一堂に会する作品でもあったのです。
過去と現在が交錯するエピソードで内田直哉さんが役を引き継ぐ……。これほど運命的なエピソードはありません。
エピソードの立ち位置としても、担当声優さんのヒストリーとしても「特別な一本」である『タイム・ドライブ』。この機会に劇場版から追い直してはいかがでしょうか?
なおレディ役の榊原良子さんは、劇場版から現在に至るまで、すべてのアニメ版でレディを演じています。そんな「コブラのすべてを知る女」にも注目です。
(気賀沢昌志)