苦渋の決断で「制作中止」? 世に出ることが叶わず惜しまれる幻のアニメ
今や日本では、膨大な数のアニメ作品が日々制作されています。しかしその作品すべてが、必ずしも世に出るとは限りません。なかには何らかの事情で制作が中止となり、幻となってしまったアニメも存在するのです。
天才・今敏監督の幻のアニメ
日本のアニメ業界は日進月歩の進歩を続けており、毎年多数の傑作を生みだしています。しかし、毎年数多くつくられるアニメのなかには、企画が立ち上げられたものの、途中で制作が中断されてしまった作品もあるのです。今回は、志半ばで制作中止となった幻のアニメを振り返りましょう。
アニメーション監督の今敏さんといえば、2023年9月15日より期間限定で4Kリマスター版が再上映される『パーフェクトブルー』や、『パプリカ』など数々の名作アニメ映画を生み出した人物として知られています。手掛けた作品はどれも個性的で、クリストファー・ノーランやダーレン・アロノフスキーをはじめとする名だたる映画監督に影響を与えるほどでした。
そんな今監督が2010年8月に亡くなる直前まで制作を進めていた作品が、『夢みる機械』とよばれるアニメーション映画です。制作中に今監督が膵臓がんで亡くなってしまったため、当初『夢みる機械』のプロジェクトは、アニメスタジオ「マッドハウス」の丸山正雄さんが主導となって動かしていました。
一説によれば全1500カットのうち600カットは完成していたと言われていますが、あるとき丸山さんは「誰が今敏の才能を引き継ぐことができるか」という難しい問題に直面します。そして「誰が引き継いでも、最後はその人の作品になってしまう」「『夢みる機械』は今敏の作品であるべき」との思いから、制作を断念する運びとなりました。
今監督に敬意を込めた形での制作中止だったとはいえ、いまだに『夢みる機械』を切望する声は多く、ネット上でも「無理とはわかっていながらも『夢みる機械』が上映される日を永遠に待ってる」「確かに『夢みる機械』は今監督の作品であるべき。でもいつか観れることを諦めきれない」といった声が相次いでいます。
『夢みる機械』とはまた少し事情が違いますが、『タビと道づれ』も残念ながらアニメ化が実現しなかった作品のひとつです。同作はマッグガーデンの「月刊コミックブレイド」で連載されていたマンガ家・たなかのか先生によるファンタジー作品で、かねてよりファンのあいだでアニメ化が熱望されていました。
2009年6月に声優・釘宮理恵さん主演のドラマCDが発売された際には、それこそ多くのファンがこのままアニメ化まで行ってくれることを期待したのではないでしょうか。
実はオリジナルTVアニメ『リコリス・リコイル』などで知られる足立慎吾監督も、同作のアニメ化を切望するファンのひとりでした。過去には自分で企画書を作り、会社に提出したこともあったそうです。その結果、会社もアニメ化に向けていろいろと動いてくれたものの、結局制作費が集まらず、実現まであと一歩というところで流れてしまいました。
ちなみに当時の足立監督は何とかアニメ化させたい気持ちから、わざわざ伊勢神宮にまで行って願掛けをしてきたとのことです。ここまでの出来事は、2011年9月に足立監督自身がX(旧Twitter)で明かしていました。
これだけ熱意のある人が制作に携われば、きっと素晴らしい作品になっていたに違いありません。